数ヶ月後、夫の会社に異変が起きた。
「今期、業績悪化でボーナスカットだって」
夫が暗い顔で帰ってきた。
「え、どのくらい?」
「半分以下」
夫は頭を抱えた。
「ヤバい…車のローン、あと200万残ってる」
夫の外車のローンは、ボーナス払いが大きい。
月々3万円だが、ボーナス月は20万円ずつ払う契約。
「貯金は?」
「ほとんどない…」
夫は貯金が苦手だ。
給料はほぼ使い切る生活をしていた。
「どうしよう…」
夫は焦っていた。
数日後、夫が私に頼んできた。
「お前の貯金、貸してくれないか」
「え?」
「車のローン、払えないんだ。頼む」
私には結婚前からの貯金が300万円ある。
「嫌です」
「なんで?夫婦だろ」
「あなたの車のローンでしょ。私には関係ありません」
「冷たいな」
「冷たくありません。あなたが無計画なだけです」
私は譲らなかった。
夫は実家にも頼んだようだが、義両親も「もう援助できない」と断られた。
結局、夫はローンを滞納した。
1ヶ月、2ヶ月…
ある日、家に業者が来た。
「ローン滞納による車両差し押さえです」
夫の外車が持っていかれた。
夫は呆然と立ち尽くしていた。
「俺の車…」
「自業自得でしょ」
私は冷たく言った。
翌日から、夫は通勤に困った。
「電車で行くしかないか…」
でも夫の会社は駅から遠い。
バスと徒歩で1時間以上かかる。
「きつい…」
夫は毎日疲れ果てて帰ってきた。
週末、実家に帰った時のこと。
父が言った。
「車がないなら、俺の古い軽貸してやるよ」
夫は固まった。
「え…」
「もう1台、もっと古い軽があるんだ。ほとんど乗ってないけど、動くぞ」
父は優しかった。
夫は顔を真っ赤にして俯いた。
「…すみません」
「いいんだよ。娘の旦那だから」
父は本当に優しい人だ。
夫が馬鹿にしていた軽自動車。
それに夫が乗ることになった。
しかも父の車より古い、20年前の軽自動車。
ボディは色褪せ、傷だらけ。
でも動く。
「…ありがとうございます」
夫は小さな声で言った。
月曜日、夫はその軽自動車で出勤した。
帰宅後、夫の顔は暗かった。
「どうしたの?」
「…会社の同僚に見られた」
「それで?」
「『あれ?外車は?』って聞かれた」
「何て答えたの?」
「…手放したって」
夫は恥ずかしそうだった。
「みんな、俺の軽自動車見て笑ってた」
「自業自得でしょ」
「…わかってる」
それから、夫は毎日その軽自動車で通勤した。
外車に乗っていた頃の自信はもうない。
会社の駐車場で、同僚の新車の隣に停めるのが恥ずかしいと言っていた。
ある日、私が聞いた。
「ダサい車だけど、乗る?乗らない?」
夫は泣きそうな顔で答えた。
「乗ります…ありがとうございます」
「お義父さんに言ったら?」
「…はい」
週末、夫は父に深々と頭を下げた。
「お義父さん、本当にありがとうございます」
「別にいいんだよ」
「あの時、俺、お義父さんの車を馬鹿にしました。本当に申し訳ありませんでした」
夫は涙を流していた。
「この車のおかげで、俺、通勤できてます。ダサいとか、そんなこと言える立場じゃなかった」
父は静かに言った。
「車はな、移動するための道具だ。かっこいいかどうかじゃない」
「…はい」
「お前は見栄を張りすぎた。身の丈に合わない買い物をして、ローンに苦しんだ」
「本当にその通りです」
「これからは堅実に生きろ。娘を幸せにするために」
「はい…」
夫は何度も頭を下げた。


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