「子供が風邪引いたのは、お前の管理が甘いからだろ」
5歳の息子が咳をしているのを見て、夫がソファから立ち上がりもせずに言った。 私は息子の額に手を当てながら、夫を振り返った。
「管理って…子供は風邪を引くものよ」 「いや、ちゃんと見てれば防げるだろ。薄着させたんじゃないの?」 「昨日は長袖着せたし、お風呂上がりもちゃんと…」 「言い訳するなよ。俺が子供の頃は母さんがちゃんと管理してたから、ほとんど風邪引かなかったぞ」
私は何も言い返せなかった。 確かに予防はしていたけれど、完璧ではなかったかもしれない。
その夜、息子の熱が上がった。 38度5分。私は夜中じゅう看病した。 額を冷やし、水分補給をさせ、咳き込む度に背中をさすった。
朝になって、寝不足の私を見た夫が言った。 「お前が体調管理ちゃんとしないから、こっちまで寝不足じゃん」 「あなたも手伝ってくれたら…」 「俺は明日仕事なんだよ。母親なんだから当然だろ」
息子の風邪が治った翌週、また熱を出した。 「また?どういう管理してるんだよ」 「保育園で流行ってるみたいで…」 「予防が足りないんだよ。もっとちゃんとやれよ」
私は黙って息子の看病を続けた。 夫は相変わらず何も手伝わず、文句だけ言い続けた。
そして1ヶ月後、夫が発熱し、私は反撃に出た。
「うぅ…寒気がする…」 夫が仕事から帰ってきて、珍しく弱々しい声で言った。 「熱あるかも…測ってくれる?」
私は体温計を渡した。 「自分で測れるでしょ」 「え?いや、でも…」 「37度8分ね。微熱じゃない」
夫はソファに倒れ込んだ。 「いや、でもしんどいんだよ…風邪薬ある?」 「自分で探して。薬箱は洗面所よ」 「え…持ってきてくれないの?」
私は冷たく言った。 「あなたの自己管理が甘いからでしょ?」
夫は驚いた顔をした。 「何言ってるんだよ…」 「ちゃんと見てれば防げたはずよ。薄着してたんじゃない?」 「そんな…俺、仕事で疲れてて…」 「言い訳するなよ」
私は息子の時に夫が言った言葉を、そのまま返した。
「お粥作ってくれる?」夫が弱々しく言った。 「大人なんだから自分で何とかして。私、これから息子の習い事の送迎があるから」 「ちょっと待てよ…いつもは看病してくれるじゃん」 「いつも?息子が風邪引いた時、あなた何かしてくれた?」
夫は黙り込んだ。
「『管理が甘い』『ちゃんとやれ』って言ってたわよね?じゃあ自分の体調管理くらいちゃんとしてよ」
私は息子の手を引いて出かける準備を始めた。
「待って…本当にしんどいんだよ…助けて」 夫の声が震えていた。
私は振り返った。 「息子が風邪引いた時も、私はこれくらいしんどかったの。でもあなたは何もしてくれなかったわよね」
「ごめん…悪かった…」 「何が悪かったの?」 「お前に…全部押し付けて…」 「それだけ?」
夫は咳き込みながら言った。 「管理が甘いとか…言ってごめん…風邪は…誰でも引くよな…」
私は少し表情を和らげた。 「そうよ。子供は特に風邪を引きやすいの。それは親の管理不足じゃない」
「分かった…本当にごめん…」 「じゃあこれからは息子が風邪引いても文句言わない?」 「言わない!絶対言わない!だから…お粥…」
私はため息をついた。 「分かったわよ。作ってあげる」
その後、3日間夫の風邪は続いた。 私は最低限の看病だけして、あとは夫に任せた。
「水…」と言われても「自分で取って」 「薬…」と言われても「自分で飲んで」 「しんどい…」と言われても「大人なんだから我慢して」
4日目、ようやく熱が下がった夫が言った。 「お前…すごいな…息子の看病、いつもこれやってるのか…」 「そうよ。しかも夜中もずっと」 「俺、何も手伝ってなかった…」
夫は頭を下げた。
それから、息子が風邪を引いた時の夫の態度が180度変わった。 「お疲れさま、俺も手伝うよ」 「今日は俺が看病するから、お前は寝てて」 「子供は風邪引くもんだよな。仕方ないよ」
先日、息子がまた微熱を出した時。 夫が額を触って言った。 「ちょっと熱あるね。今日は俺が見とくから、お前は休んで」
私は微笑んだ。 「ありがとう」 「いや、当然だろ。俺も親なんだから」
夫の風邪は、最高の教材だった。 自分が弱った時に初めて、看病する側の大変さが分かったようだ。
「管理が甘い」から「お疲れさま」へ。 夫が学ぶのに、たった3日間の風邪で十分だった。
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