「わかった。じゃああなたが1週間料理作って」
「は?」
夫が驚いた顔をする。
「お母さんの料理がレベル低いって言うなら、あなたが作ればいいでしょ。1週間、全部あなたが料理担当」
「いや、俺料理できないし」
「じゃあ文句言わないで。できもしないくせに、人の料理を馬鹿にしないで」
「でも—」
「できないなら、もう二度とお母さんの料理を馬鹿にしないで」
夫は黙った。
翌日、仕事から帰ると、夫が言った。
「やるよ。1週間料理作ってやる。そんな難しくないだろ」
「本当に?」
「ああ。お前が俺を馬鹿にしてるみたいで腹立つし」
「じゃあお願いね。私は一切手伝わないから」
こうして、夫の料理週間が始まった。
1日目
仕事から帰ると、テーブルにカップ麺が置いてあった。
「え、これ?」
「ああ、時間なかったから」
「料理作るって言ったよね?」
「カップ麺も料理だろ」
私は呆れたが、何も言わなかった。
カップ麺を食べながら、夫が言った。
「明日はちゃんと作るから」
2日目
帰宅すると、コンビニ弁当が2つ並んでいた。
「…これは?」
「いや、仕事終わって疲れてたし、コンビニで買ってきた」
「料理作るって言ったよね」
「明日から本気出す」
私はため息をついた。
3日目
夫が初めてキッチンに立った。
「今日は目玉焼き作る」
卵をフライパンに割り入れる。
でも火加減が強すぎて、すぐに焦げた。
「あれ?なんで?」
「火、強すぎるんじゃない?」
「うるさい。手伝わないって言ったろ」
結局、真っ黒に焦げた目玉焼きが出来上がった。
「…食べられる?」
夫が不安そうに聞く。
私は一口食べた。苦い。
「どう?」
「…頑張ったね」
夫は不満そうだった。
4日目
「今日はレトルトカレー」
夫がレトルトのカレーを温めて、ご飯にかけた。
「これなら失敗しないだろ」
確かに食べられる。でも料理とは言えない。
「あと3日頑張ってね」
「…うん」
夫の顔に疲れが見えた。
5日目
帰宅すると、夫がキッチンでぐったりしていた。
「どうしたの?」
「もう無理…」
「え?」
「料理って…こんな大変なの?」
夫は本気で疲れ果てていた。
「毎日献立考えて、買い物して、調理して、片付けて…」
「そうだよ」
「お前、毎日これやってたの?」
「うん」
「…すごいな」
夫は初めて私の苦労を理解したようだった。
「ごめん。俺が間違ってた」
「お母さんの料理がどれだけ手間がかかってるか、わかった?」
「わかった…」
夫は頷いた。
「お義母さんの料理、質素でも全部手作りで、栄養バランス考えて、家族のこと思って作ってたんだな」
「そうだよ。高級食材使えば誰でも美味しくできる。でもお母さんは限られた予算で、工夫して美味しくしてるの」
「本当にごめん」
夫は反省しているようだった。
でも私は冷たく言った。
「でも私はもうあなたに料理作らない」
「え?」
「自分で作って」
「ちょっと待って。反省してるって」
「反省してるなら、自分でできるよね」
「無理だよ。お前の料理が食べたい」
「嫌です」
私は譲らなかった。
それから、夫は毎日コンビニ弁当生活になった。
1週間、2週間…
夫の顔色が悪くなってきた。
「なんか、最近体調悪い…」
「栄養偏ってるからじゃない?」
「お前、料理作ってくれよ」
「嫌です」
夫は困り果てていた。
3週間目、夫が倒れた。
病院で診てもらうと、「栄養失調と疲労」と診断された。
「コンビニ弁当ばかり食べてませんか?」
医師が聞いた。
「…はい」
「野菜不足、ビタミン不足です。ちゃんとバランスの良い食事を摂ってください」
帰宅後、夫が土下座した。
「本当にごめん。お義母さんの料理を馬鹿にして、お前の苦労も理解しなくて」
「…」
「もう二度と馬鹿にしない。だから、料理作ってほしい」
私は少し考えた。
「条件がある」
「何でも言って」
「お母さんに直接謝ること」
「わかった」
「それから、毎日『美味しい』って言うこと」
「もちろん」
「料理に文句を言わないこと」
「絶対に言わない」
「これを破ったら、本当に離婚するから」
夫は真剣な顔で頷いた。
週末、私たちは実家に行った。
夫が母の前で土下座した。
「この前は本当に失礼なことを言ってすみませんでした」
人は経験しないとわからない。
料理の大変さ。
家庭料理の素晴らしさ。
そして、作ってくれる人への感謝。
夫はそれを学んだ。
これからも、感謝の気持ちを忘れずに。


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