田中さんを家に招き入れると、彼は丁寧に頭を下げた。
「お母様は、私の人生を救ってくれた恩人です」と彼は静かに語り始めた。
父の顔が青ざめる。しかし、田中さんは優しく微笑んだ。
「ご心配なく。私は恨みに来たのではありません。真実を伝えに来たのです」
田中さんは30年前の事件の真相を語った。彼は冤罪で職を失い、人生のどん底にいた。そんな時、母が彼の無実を信じ、真犯人を突き止めるため奔走していたという。
「お母様は証拠を集め、真犯人と対峙しました。しかし、会社の体面を守るため、事件は闇に葬られたのです」
父は驚きの表情を浮かべた。「君か…あの時の」
田中さんは頷いた。「はい。お母様の励ましで、私は再び人生をやり直すことができました」
そして彼はゆっくりと封筒を取り出した。
「これは、真相を記した手紙です。お母様から、もし彼女に何かあったら家族に渡すよう託されていました」
私たちは息をのみながら手紙を読んだ。そこには、母の勇気と愛、そして家族への深い思いが綴られていた。
母は真犯人を許し、彼の更生を見守っていたのだ。そして、この秘密が家族を傷つけることを恐れ、誰にも明かさなかった。
「お母様の最後の願いは、この真実があなた方の絆を深めることでした」田中さんは静かに言った。
涙ぐむ父を見て、私は母の遺した香水を手に取った。懐かしい香りが部屋に広がる。
「お母さん、あなたの勇気と愛を誇りに思います」
その瞬間、家族の絆が一層強くなったのを感じた。母の香りに包まれながら、私たちは新たな一歩を踏み出す決意をした。
窓の外では、桜の花びらが舞い始めていた。 新しい季節の訪れと共に、私たちの人生も新たなページをめくり始めたのだ。
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