「失礼って…でもアレルギーなんです」
「アレルギーなんて甘えよ!少しくらい食べられるはずでしょ!」
義母が私の皿にエビを無理やり乗せようとする。
「やめてください!」
私は皿を押しのけた。エビが床に落ちた。
義母が激怒した。
「何なのよ、あんた!私の料理を粗末にして!」
「命に関わるんです!わかってください!」
「大げさなのよ、あんたは!好き嫌いを正当化してるだけでしょ!」
私は泣きそうになった。
夫が「母さん、そこまで言わなくても」と言ったけど、「あんたは黙ってて」って。
私はもう限界だった。
「帰ります」
「ちょっと、待ちなさいよ」
「もう無理です。お義母さんは私のことを理解してくれない。もう来ません」
私は家を飛び出した。
夫が追いかけてきて「ごめん」って謝ってくれたけど、私の心は決まっていた。
「もう義実家には行かない」
それから、私は義実家の食事会を全て断った。
義母から「来ないの?」って連絡が来ても「行きません」の一点張り。
夫だけが義実家に行くようになった。
義母は「嫁が来ない」と親戚に愚痴っていたらしいけど、もう知ったことじゃない。
それから半年が経った。
ある日、夫から連絡があった。
「母さんが入院した」
「え?何で?」
「蕎麦アレルギーが突然発症したらしい。呼吸困難になって救急搬送された」
私は驚いた。
義母は今まで蕎麦を普通に食べていた。でも、アレルギーは突然発症することがある。
病院に見舞いに行くと、義母は病室のベッドで横になっていた。
顔にはまだ蕁麻疹の跡が残っていた。
「お義母さん、大丈夫ですか?」
義母は私を見て、バツが悪そうな顔をした。
「ああ…来てくれたの」
医師が説明してくれた。
「今回は早めに対処できたので大事には至りませんでしたが、アナフィラキシーショック寸前でした。今後は蕎麦を絶対に食べないでください。命に関わります」
義母は黙って頷いていた。
医師が去った後、私は義母に言った。
「アレルギーって大変ですよね」
義母は黙っている。
「呼吸ができなくなるの、怖かったでしょう」
「…うん」
「でもお義母さん、私には『大げさ』『少しくらい大丈夫』って言いましたよね?」
義母の顔が強張った。
「私もあれと同じことが起きるんです。エビを食べたら。それでも『大げさ』だと思いますか?」
義母は何も言えなかった。
「お義母さんは今回、たまたま助かりました。でも次に間違って蕎麦を食べたら、死ぬかもしれない。私も同じです」
義母の目から涙がこぼれた。
「ごめんなさい…私、わかってなかった…」
「医師から説明を受けて、やっと理解できましたか?」
「うん…本当に、命に関わるのね…」
「はい。だから私は何度もお願いしたんです。でもお義母さんは聞いてくれなかった」
義母は泣きながら言った。
「本当にごめんなさい。あなたの気持ち、やっとわかった。怖かった…息ができなくて…死ぬかと思った…」
私は冷静に答えた。
「わかっていただけて良かったです」
「これから気をつけるから…だから、また義実家に来て…」
私は首を横に振った。
「ごめんなさい。でももう信用できません」
「え…」
「お義母さんは実際に体験しないとわからなかった。それまで私がどれだけ説明しても、『大げさ』で片付けられました。そんな人に、もう命を預けることはできません」
義母は何も言えなくなった。
夫が「そこまで言わなくても」と言ったけど、私は譲らなかった。
「私はこれまで何度も説明した。でも理解してもらえなかった。お義母さんが理解したのは、自分が苦しんでから。遅すぎます」
退院後、義母から何度も謝罪の連絡が来た。
「本当にごめんなさい」「反省してる」「もう絶対にエビ料理は作らない」
でも私の答えは変わらなかった。
「お義母さんのお気持ちはわかりました。でももう義実家での食事会には参加しません」
義母は諦めたのか、それ以上は何も言わなくなった。


コメント