「え…友達が投稿した写真だけど」
「じゃあ友達に頼んで消してもらえよ。俺の妻がそんなダサい格好してるの、みんなに見られたくないんだよ」
私は何も言えなくなった。
翌週、美容院に行った。
髪を伸ばしているけど、毛先が傷んでいたのでカットしてもらうため。
美容師さんが言った。
「お客様、前はショートヘアでしたよね?すごくお似合いでしたよ」
「ありがとうございます…でも、夫が長い方がいいって」
美容師さんは少し困った顔をして、でも優しく言った。
「でも、髪型って自分が気に入ることが一番大事だと思いますよ。毎日鏡を見るのは自分ですから」
その言葉が、胸に刺さった。
そうだ。
毎日鏡を見るのは私だ。この髪型で生きるのは私だ。
なのに、なぜ夫の好みに合わせなきゃいけないの?
私の人生なのに。
家に帰って、夫に言った。
「ねえ、もう外見について指図しないで。私のスタイルは私が決めるから」
夫は驚いた顔をした。
「は?何言ってんの?」
「私の髪も、服も、化粧も、全部私のものでしょ。あなたの好みに合わせる義務はないよ」
「俺の妻なんだから、俺を立てるのは当然だろ」
「妻だからって、自分を殺す必要はないよ」
夫の顔が赤くなった。
「お前、生意気になったな。友達に何吹き込まれた?」
「誰にも吹き込まれてない。自分で気づいたの。私、あなたの人形じゃないから」
夫は立ち上がって、大声で言った。
「じゃあもういい!そんなに俺の言うこと聞けないなら、離婚だ!」
私は冷静に答えた。
「いいよ。離婚しよう」
夫は固まった。
「…は?」
「離婚しようって。あなたは私を自分の好みに染めたいだけでしょ。私という人間を尊重してないもん」
「ちょっと待てよ。そんなつもりじゃ…」
「もう決めたから。明日、弁護士に相談する」
夫は慌て始めた。
「ごめん、言い過ぎた。離婚とか、そんな…」
「遅いよ。私、もう疲れた」
その後、夫は何度も謝ってきたけど、私の気持ちは変わらなかった。
離婚調停を申し立て、夫の支配的な言動を全て記録したメモを提出した。
調停委員も「これは精神的DVに該当する可能性がありますね」と言ってくれた。
離婚は3ヶ月で成立した。
離婚が決まった日、私は美容院に行った。
「ショートヘアに戻してください。一番短くしてください」
美容師さんは笑顔で「お似合いになりますよ」って言ってくれた。
鏡に映る自分を見て、涙が出た。
やっと、私に戻れた。
髪を切って、クローゼットのスカートを全部処分して、パンツスタイルの服を買い揃えた。
化粧も薄くして、自分が好きなナチュラルメイクに戻した。
新しいアパートで、新しい生活が始まった。
半年後、街で元夫とバッタリ会った。
元夫は一瞬、私だと気づかなかったみたいだ。
「…お前?」
「久しぶり」
「髪…めっちゃ短くしたんだな」
「うん。気に入ってる」
元夫は複雑な顔をしていた。
「なんか…お前、すごく楽しそうだな」
「うん、楽しいよ。毎日自分らしく生きられるから」
元夫は何も言えなくなった。
「じゃあね」
私は爽やかに別れを告げた。
今、私は本当に幸せだ。
自分の好きな髪型をして、好きな服を着て、好きな化粧をして。
誰にも指図されない。
そして最近、新しい彼氏ができた。
彼は初めて会った時、こう言ってくれた。
「君のショートヘア、めちゃくちゃ似合ってるね。かっこいい」
その言葉が嬉しくて、泣きそうになった。
人は、自分を肯定してくれる人と一緒にいるべきなんだ。
変えようとする人とじゃなくて。
元夫は、きっとまた別の女性に同じことをするんだろう。
でも、もう私には関係ない。
私は私のままで、幸せに生きていく。
因果応報。
元夫は自分の支配欲のせいで、私を失ったのだから。



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