翌日から、私は毎朝5時に起きた。
弁当を作り、朝食を作り、仕事に行く。
最初の日、誠が帰ってきて言った。
「今日の弁当、ご飯が硬かった」
「え、そうだった?」
「それと、おかずが少ない」
「一応、4品入れたけど…」
「母さんのは6品あったよ」
誠が、不満そうに言った。
次の日も、文句があった。
「卵焼き、甘すぎ」
その次の日も。
「唐揚げ、味が薄い」
毎日、必ず何か言う。
私は、だんだん朝が憂鬱になっていった。
2週間後、職場の同僚に愚痴を言った。
「毎日弁当作ってるのに、文句ばかりで…」
「大変ね」
同僚の恵が、同情してくれた。
「でも、旦那さんて会社でも弁当のこと言ってそう」
「え?」
「なんかそういう人って、職場でも奥さんの悪口言いそうじゃない?」
私は、気になった。
誠の会社の近くで働いている友人に、こっそり聞いてみた。
「ねえ、うちの夫のこと知ってる?」
「誠くん?知ってるよ」
友人が、少し言いにくそうに言った。
「実は…毎日お昼に弁当の文句言ってるよ」
「え?」
「『うちの嫁の弁当、不味くて』とか『母さんの弁当と全然違う』とか」
「同僚に聞こえるくらい大きな声で言ってるって」
私は、怒りで手が震えた。
職場で、私の悪口を言いふらしていた。
「しかも、写真まで見せてるらしいよ」
「写真?」
「『こんな弁当、食えないよな』って笑いながら」
私は、唇を噛んだ。
次の日の朝、私は気合いを入れた。
いつもより2時間早く起きた。
出汁を取り、丁寧に卵焼きを焼いた。
唐揚げは、二度揚げした。
彩りよく、美しく詰めた。
誠が起きてきて、弁当箱を見た。
「あれ、今日は豪華じゃん」
「気合い入れて作ったの」
誠が、満足そうに持っていった。
その日の夕方、誠から電話があった。
声が、上擦っていた。
「あの…今日の弁当、みんなに見せたら…」
「うん?」
「すごい褒められた…」
「そう」
「同僚に『奥さん料理上手いね』って言われて…」
「それで?」
「上司も『羨ましい、うちの妻より全然上手い』って…」
誠の声が、段々小さくなっていった。
「実は…社長も昼休みに通りかかって…」
「社長が?」
「『君の奥さん、センスあるね。料理教室でも開けるんじゃないか』って…」
「へえ」
「それで…みんなが『毎日こんな弁当作ってもらえるなんて羨ましい』って…」
私は、静かに言った。
「よかったわね」
「あのさ…俺、今まで職場で弁当の悪口言ってたじゃん…」
「知ってるわよ」
「え?」
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