「写真まで見せて、笑ってたんでしょ?」
誠が、黙り込んだ。
「『こんな弁当食えない』って言ってたんでしょ?」
「それは…」
「今日、同僚たちはどんな顔してた?」
誠が、答えられなかった。
毎日悪口を言っていた弁当が、今日は社長にまで褒められた。
どれだけ恥ずかしかったか、想像するだけで十分だった。
「里奈、ごめん。俺…」
「謝っても遅いわ」
「でも…」
「明日から、弁当は作らない」
「え?」
「作りたくないから」
私は、電話を切った。
翌日から、私は弁当を作らなくなった。
誠は、最初は黙っていた。
でも、3日後に言った。
「やっぱり弁当作ってよ」
「嫌よ」
「なんで?昨日仲直りしたじゃん」
「仲直りしてないわよ」
誠が、困った顔をした。
「でも…外食すると金かかるし」
「知らない」
「頼むよ。これからは文句言わないから」
私は、冷たく言った。
「文句を言わないのは当たり前でしょ」
「問題は、職場で私の悪口を言いふらしてたこと」
誠が、黙った。
「私がどれだけ早起きして、頑張って作ってたと思ってるの?」
「ごめん…本当にごめん…」
誠が、頭を下げた。
「これからは絶対に言わないから」
「もう遅いわ」
私は、立ち上がった。
「離婚しましょう」
誠が、顔を上げた。
「え?離婚?そこまでしなくても…」
「あなたは、私を大切にしてくれなかった」
「毎日早起きして作った弁当を、職場で笑いものにした」
「そんな人と、これ以上一緒にいられない」
誠が、必死に言った。
「待ってくれ。俺、変わるから」
「変わる前に、また同じことをするでしょ」
「しない!絶対にしない!」
「信じられない」
私は、荷物をまとめ始めた。
「頼む…行かないでくれ…」
誠が、涙目になった。
「弁当、食べたいから?」
「違う…お前がいないと…」
「遅いわ」
私は、家を出た。
実家に戻って1ヶ月後、離婚が成立した。
友人から聞いた話では、誠は毎日コンビニ弁当で、職場でもすっかり元気がなくなったらしい。
同僚に「奥さんどうしたの?」と聞かれるたびに、困った顔をしているそうだ。
私は今、料理教室を開業した。
社長の言葉が、背中を押してくれた。
生徒は30人。毎回、満員だ。
「先生の料理、本当に美味しいですね」
生徒たちが、笑顔で言ってくれる。
「ありがとうございます」
私も、笑顔で答える。
誰かに文句を言われながら作る弁当より、ずっと幸せだ。
窓の外を見ると、青空が広がっていた。
新しい人生が、始まっている。
【完】


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