「あんたを育てるのにいくらかかったと思ってるの!?」
また母親から電話がかかってきた。用件はいつも同じ。金の無心だ。
私は28歳の会社員。一人暮らしを始めて5年になる。でも母親は週に3回は電話をかけてきて、「お金を貸して」と言ってくる。貸してと言いながら、一度も返ってきたことはない。
母親は昔からこうだった。
父親は私が小学生の時に他界した。それから母子家庭で育ったんだけど、母親は働くのが嫌いで、パートもすぐ辞める。生活費は父の遺族年金と、私が高校生の頃から始めたバイト代で賄っていた。
「あんたのために頑張って働いてるのよ」って口では言うけど、実際は私の方が稼いでた。
大学進学の時も、私は奨学金とバイトで学費を払った。母親は「大学なんて贅沢」って言いながら、自分はブランドバッグを買ったり、友達とランチに行ったりしてた。
社会人になって一人暮らしを始めたら、母親の金の無心がエスカレートした。
「電気代が払えない」「家賃が足りない」「病院代がない」
最初は心配して振り込んでいたけど、母親のSNSを見たら、高級レストランの写真や旅行の写真がアップされてた。完全に遊ぶ金欲しさだった。
それでも断ると、「育ててやった恩を忘れたのか」「親不孝者」「冷血人間」って罵倒される。罪悪感で結局お金を渡してしまう日々。
私の貯金はどんどん減っていった。
そんな時、職場の先輩に紹介されて、優しい男性と付き合うことになった。彼は真面目で誠実で、私のことを本当に大切にしてくれた。
交際1年で、彼がプロポーズしてくれた。
嬉しかった。やっと母親から離れて、自分の人生を歩めるって思った。
でも、母親に婚約を報告した時、事件が起きた。
【続き】
「結婚?いいわよ。でも相手の男性には、毎月10万円私に援助してもらうから。それが条件」
は?
「お母さん、それはおかしいよ。彼には関係ないでしょ」
「何言ってるの。あんたを育てたのは私よ?その恩を返すのは当然でしょ。嫌なら結婚なんて許さないわ」
母親は本気だった。
さらに最悪なことに、母親は勝手に彼に連絡を取って、「娘をもらうなら毎月10万援助しろ」「今まで育てた費用を一括で払え」と要求したらしい。
彼から電話がかかってきた。
「ごめん、話がある」
彼の声は重かった。嫌な予感がした。
会って話を聞くと、彼は真剣な顔でこう言った。
「君のお母さんとは、今後一切関わりたくない。もし結婚するなら、完全に縁を切ってほしい。でないと結婚は考え直す」
私は頭が真っ白になった。
「縁を切るって…それは…」
「君がお母さんを大切に思う気持ちはわかる。でもあれは愛情じゃなくて支配だよ。君はずっと搾取されてる。このまま結婚しても、お母さんが僕たちの生活に入り込んでくる。子供が生まれても、お金をせびられ続ける。それは嫌だ」
彼の言葉は正しかった。
でも母親を捨てるなんて、私にできるだろうか。
「1週間、考えさせて」
私は悩んだ。眠れない日が続いた。
そんな時、母親からまた電話が来た。
「あんたの彼氏、感じ悪いわね。たった10万ケチるなんて。もっとマシな男見つけなさいよ」
その言葉で、何かがプツンと切れた。
「お母さん、もう無理だよ」
「は?何が」
「私、彼と結婚する。そしてお母さんとは縁を切る」
「はあ!?ふざけんじゃないわよ!あんたを育てるのにどれだけ苦労したと思ってるの!恩知らず!」
「育ててくれたことは感謝してる。でも、もう十分返したよ。高校の時からバイトして家にお金入れて、社会人になってからも毎月何万も渡して。もう終わりにする」
「あんたみたいな冷血人間、産まなきゃよかった!親戚中に言いふらしてやるからね!」
母親は電話を切った。
翌日から、母親は親戚中に「娘に捨てられた可哀想な母親」を演じ始めた。LINEで親戚から「お母さんを大事にしなさい」「親不孝だ」ってメッセージが来た。
でも、私は親戚一人一人に、今までの経緯を説明した。母親が私のバイト代を使い込んでいたこと、社会人になってから搾取され続けていたこと、婚約者に金を要求したこと。
証拠として、振込履歴や母親とのLINEのスクリーンショットも送った。
すると、親戚の態度が一変した。
「そんなことがあったの」「お母さん、昔から金遣い荒かったもんね」「あなたは悪くない」
むしろ親戚から母親に「いい加減にしろ」って説教が入ったらしい。
母親からの連絡は途絶えた。
私は彼と無事に結婚した。新しい生活が始まった。
それから3年が経った。
ある日、叔母から連絡があった。
「お母さんが入院したの。介護が必要になるかもしれない。あなた、娘として面倒見てあげなさい」
は?
「叔母さん、私は縁を切ったはずですけど」
「そうは言っても親子でしょ。血の繋がりは消えないのよ」
「じゃあ叔母さんが面倒見てください」
「私には私の生活があるのよ!」
「私にも私の生活があります。それに、お母さん自身が『産まなきゃよかった』って言ってたので、もう親子じゃないですよね」
叔母は絶句していた。
数日後、母親本人から久しぶりに電話がかかってきた。
「あんた…お母さんを助けて…お金もないし、一人じゃ生活できないの…」
声は弱々しかった。でも、私の心は動かなかった。
「お母さん、私に『育ててやった恩』はないんですよね?あの時そう言ってましたよ」
「あれは…怒ってただけで…」
「私、もう関わりたくないんです。さようなら」
電話を切った。
夫が隣で「よく頑張ったね」って抱きしめてくれた。
今、私は幸せだ。夫と娘と、穏やかな日々を過ごしている。
母親は最終的に生活保護を受けて、行政のサポートで暮らしているらしい。時々親戚から「冷たい」って言われるけど、もう気にしない。
毒親からの解放。
私は自分の人生を、やっと生きられるようになった。


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