「うえっ!まずい!何これ!」
義母は顔をしかめて、私が作った料理をティッシュに吐き出した。
私が朝から時間をかけて作った鶏肉のトマト煮込みを、私の目の前で。
「え…まずいって…」
「こんなもの、孫には食べさせられないわ。味付けがおかしいし、肉も固い。あなた、本当に料理できるの?」
義母は私が作った料理を全てゴミ箱の方に寄せた。まるで生ゴミのように。
私は30歳の主婦。夫と3歳の息子と暮らしている。今日は月に一度の義実家での夕食会。義母に「たまには嫁が料理しなさい」と言われて、朝から頑張って準備してきた。
鶏肉のトマト煮込み、サラダ、ポテトグラタン。全部自信作だった。
なのに、義母は私の目の前で吐き出した。
「義母さん、失礼じゃないですか。私、朝から時間かけて作ってきたんです」
「時間かけてこの程度?だから最近の若い人はダメなのよ。料理の基本がなってないわ」
夫が慌てて「母さん、そんな言い方ないよ」と言ってくれたけど、義母は聞く耳を持たない。
「あなたは甘いのよ。こんな料理で育てられたら、孫が可哀想じゃない」
義姉(夫の兄の嫁)が気まずそうに「お義母さん、私いただきますね」と私の料理を食べてくれた。
「美味しいですよ、これ」
義姉がフォローしてくれたけど、義母は鼻で笑った。
「あなたも味音痴なのね」
私は悔しくて涙が出そうだった。
夫が私の料理を食べて「美味しいよ。いつも家で食べてるけど、俺は好きだよ」と言ってくれた。
でも義母は「あなたが甘やかすから、嫁が成長しないのよ」と夫まで責めた。
結局、その日の夕食は義母が作り直した料理になった。私の料理は全て廃棄された。
家に帰る車の中、私は泣いた。
「あんな屈辱、初めてだよ」
「ごめん。母さん、言い過ぎだったよね」
「言い過ぎじゃない。あれは侮辱だよ。私の料理を目の前で吐き出して、ゴミ扱いして」
夫は謝ってくれたけど、傷ついた心は戻らなかった。
翌月の義実家での夕食会。
義母がまた「今日は嫁が料理するのよね?」と言ってきた。
しかし私は冷静に答えた…。
【続き】
「いいえ、もう作りません」
「は?何言ってるの」
「前回、私の料理を吐き出してゴミ扱いしましたよね。そんな扱いを受けてまで作る義理はありません」
義母の顔が赤くなった。
「あれは…あなたの料理がまずかったから仕方ないでしょ」
「まずかったかどうかは主観です。でも、作った人の目の前で吐き出すのは、人としてありえない行為です」
「何よその言い方。生意気な」
「生意気?私はただ、もう料理はしないと言ってるだけです。今日は外食にしましょう」
夫も「それがいいと思う。母さん、あの時は妻を傷つけたよ」と私の味方をしてくれた。
義母は不満そうだったけど、外食になった。
それから数ヶ月。
義実家での夕食会は全て外食になった。私は一度も料理を作らなかった。
義母が「たまには嫁の手料理が食べたいわね」と嫌味を言ってきたけど、私は笑顔で返した。
「あら、私の料理はまずくてゴミだとおっしゃいましたよね?そんなものを作るわけにはいきません」
義母は何も言い返せなかった。
義姉が小声で「よく言った」と私に言ってくれた。義姉も義母の料理への文句には長年悩まされていたらしい。
ある日、義実家で親戚の集まりがあった。
義母が「嫁たちに料理を手伝ってもらうわ」と言い出した。
義姉は「わかりました」と手伝ったけど、私は動かなかった。
「私は手伝いません」
「何で?嫁なんだから当然でしょ」
「義母さん、私の料理は『まずくて孫に食べさせられない』んですよね?だったら作らない方がいいと思いまして」
親戚の前で言ってやった。
親戚の一人が「え、どういうこと?」と聞いてきた。
私は淡々と説明した。
「以前、私が朝から時間をかけて作った料理を、義母さんが目の前で食べて吐き出して、『まずい』『ゴミ』扱いしたんです。それ以来、私は義実家では料理をしないことにしています」
親戚がざわついた。
「お義母さん、それは酷いんじゃない?」
「作ってくれた料理を吐き出すなんて…」
義母は顔を真っ赤にして「だって本当にまずかったんだもの!」と言い訳したけど、親戚たちは冷たい目で義母を見ていた。
親戚の一人が「じゃあ私が○○さん(私)の料理食べてみたいわ。本当にまずいのか確認したい」と言ってくれた。
私は後日、その親戚に同じ料理を作って持っていった。
「美味しい!何がまずいの?全然普通に美味しいわよ」
親戚は私の料理を絶賛してくれた。他の親戚にも振る舞うと、みんな「美味しい」と言ってくれた。
その話が義母の耳に入った。
義母は何も言わなかったけど、親戚から「お義母さん、嫁いびりはダメよ」と注意されたらしい。
それから義母は私に料理を作れとは言わなくなった。
義実家での夕食会は相変わらず外食か、義母が一人で作るか。
私は一切手を出さない。
「手伝わなくていいの?」って夫が聞いてきたけど、私は答えた。
「あなたのお母さんが吐き出したんだよ。私の料理を。あんな屈辱を受けてまで手伝う必要ある?」
夫は何も言えなかった。
先日、義母が珍しく私に言ってきた。
「あの時は…言い過ぎたかもしれないわね」
謝罪ではない。でも、義母なりの歩み寄りだった。
私は冷静に答えた。
「言い過ぎたかもしれない、ではなくて、完全に間違ってました、と言えますか?」
義母は黙った。
「言えないなら、私はこのままでいいです。義母さんの前では二度と料理しません」
義母は悔しそうな顔をしていた。
因果応報。
人を侮辱すれば、自分も大切なものを失う。
義母は「嫁の手料理」という、本来なら当たり前に享受できたはずのものを、自分の手で壊した。
私はもう、義母のために料理を作ることはない。
あの日、目の前で吐き出された屈辱は、一生忘れない。



コメント