「良かったわね、まだ準備できてなかったし」
電話越しに聞こえた義母の声。私は耳を疑った。
私は30歳。夫と結婚して3年。念願の妊娠が判明したのは2ヶ月前だった。
でも、義母は最初から反対していた。
「まだ早いんじゃない?」「仕事はどうするの?」「ちゃんと準備できてるの?」
私が「大丈夫です」と言っても、義母は納得しなかった。
「私が孫の面倒を見なきゃいけないのに、準備もできてないなんて困るわ」
「義母さんに面倒は見てもらいませんけど」
「何言ってるの。初めての子育てなんて無理に決まってるでしょ。私が教えてあげないと」
義母の過干渉は妊娠前から酷かったけど、妊娠してからさらに悪化した。
「仕事辞めなさい」「もっと栄養取りなさい」「運動しすぎじゃない?」
毎日のように連絡が来る。
そして、妊娠10週目。
あの日は突然だった。
仕事中、下腹部に激痛が走った。トイレに行くと、出血していた。
慌てて病院に行くと、医師の顔が曇った。
「申し訳ございません…流産です」
頭が真っ白になった。
「赤ちゃんは…」
「心拍が確認できません。稽留流産です。手術が必要になります」
私は泣いた。診察室で、声を出して泣いた。
夫に電話した。
「赤ちゃん…ダメだった…」
夫は「今から行く」と言ってくれた。
手術の日程が決まり、私は心身ともにボロボロだった。
夫が帰宅して、義母に報告の電話をした。
私は隣で聞いていた。
「母さん、実は…赤ちゃん、流産しちゃって」
夫の声は沈んでいた。
そして、義母の声が聞こえた。
すると義母はとんでもない事を言い出した。
【続き】
「あら、そうなの」
その声のトーンが、妙に軽かった。
そして次の言葉が聞こえた。
「良かったわね、まだ準備できてなかったし」
私は固まった。
良かった?
流産が、良かった?
夫も絶句していた。
「母さん…何言ってるの?」
「だって、あなたたち、まだ準備できてなかったでしょ。お嫁さんも仕事辞めてなかったし。今回はタイミングが悪かっただけよ。次はちゃんと準備してから作りなさい」
私は涙が止まらなかった。
夫が「母さん、そんな言い方ないだろ」と言ったけど、義母は「何よ、事実でしょ」と悪びれない。
電話を切った後、夫が私を抱きしめてくれた。
「ごめん…母さん、ああいう人なんだ…」
「信じられない…」
数日後、手術を受けた。
身体的にも精神的にも辛かった。
夫は仕事を休んで付き添ってくれたけど、義母からは一切連絡がなかった。
そして1週間後、親戚の叔母から電話があった。
「ちょっと、お義母さんから聞いたけど…流産したんだって?大丈夫?」
「はい…まだ辛いですけど」
「それがね、お義母さん、親戚中に『嫁が流産したのよ。まあ、まだ早かったから良かったわ』って言ってるの。ちょっとどうかと思って」
私は言葉を失った。
「え…親戚に?」
「そうなのよ。昨日の集まりで言ってたわ。『準備できてなかったから、ちょうど良かった』って」
私は怒りで震えた。
「叔母さん、ありがとうございます。教えてくれて」
電話を切って、私は夫に報告した。
「義母さん、親戚中に言いふらしてるって。流産が良かったって」
夫の顔が青ざめた。
「マジで?」
「叔母さんから聞いた」
夫はすぐに義母に電話した。スピーカーにして、私にも聞かせてくれた。
「母さん、親戚に何て言ったの?」
「え?何が?」
「妻の流産のこと、良かったって言ったって?」
「ああ、それ?だって本当のことじゃない。まだ準備できてなかったから、今回は仕方なかったって」
夫が怒鳴った。
「仕方ないじゃないだろ!妻はすごく辛い思いしてるのに!何が良かっただよ!」
「あら、そんなに怒らなくても。次があるじゃない」
「次の問題じゃない!母さん、人の気持ちがわからないの?」
「わかってるわよ。だから慰めてるのに」
「それが慰めに聞こえると思ってるの?最低だよ」
夫は電話を切った。
私は夫に言った。
「もう限界。義母さんとは関わりたくない」
「わかった。俺も母さんとは距離を置く」
でも、それだけじゃ気が済まなかった。
私はカウンセラーに相談した。流産後の心のケアのために通っていたカウンセラーに、義母の発言を話した。
カウンセラーは真剣な顔で言った。
「それは精神的虐待です。あなたが一番辛い時に、その言葉は許されません」
「やっぱり…おかしいですよね」
「おかしいです。診断書を書きますので、必要なら使ってください」
診断書には「義母の発言による精神的苦痛で、PTSD症状が見られる」と書かれていた。
私は弁護士に相談した。
弁護士は診断書と、義母の発言の録音(夫が録っていてくれた)を聞いて、こう言った。
「これは慰謝料請求できます。精神的苦痛を与えた証拠が揃っています」
「本当ですか?」
「はい。流産という辛い出来事を『良かった』と言い、親戚中に言いふらす行為は、明らかに悪質です」
私は決めた。
義母に慰謝料を請求する。
弁護士から義母に内容証明が送られた。
「流産を喜ぶ発言と、親戚への言いふらしによる精神的苦痛。慰謝料200万円を請求します」
数日後、義母から夫に電話があった。
「何これ!?弁護士から手紙が来たんだけど!」
「母さんが言ったことの結果だよ」
「冗談だったのに!本気にしてたの?」
「冗談?流産が良かったって言うのが冗談?」
「だって…そんなつもりじゃ…」
「もう遅い。妻は本気で傷ついてる。俺も母さんを許さない」
義母は泣き始めた。
「ごめんなさい…謝るから…訴えるのだけはやめて…」
「謝罪じゃ済まない。ちゃんと慰謝料払って」
「そんなお金ない…」
「じゃあ分割で払って。弁護士が計算してくれるから」
義母は何も言えなくなった。
最終的に、義母は慰謝料150万円を分割で払うことになった。
そして私たち夫婦は、義母と完全に絶縁した。
それから2年。
私は再び妊娠し、無事に出産した。元気な男の子だ。
義母からは「孫に会わせて」と何度も連絡が来たけど、全部無視している。
夫も「母さんには会わせない」と決めている。
「あなたは私の一番辛い時に、流産を喜んだ。そんな人に、大切な息子を会わせるわけにはいかない」
義母は親戚中から「あの人はおかしい」と言われ、孤立しているらしい。
自業自得だ。
人の痛みを理解できない人は、自分も痛みを味わう。
因果応報。
義母には、二度と孫に会う資格はない。
私の息子は、優しい人たちに囲まれて育つ。
義母のような冷酷な人間には、近づけさせない。
それが、母親としての私の決意だ。



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