「まだ俺の事を好きなんだろ?今度ご飯でも行こうか」
久しぶりに会った元彼がそう言った。私は呆れて言葉が出なかった。
私は28歳の会社員。元彼の田中とは大学時代に付き合っていて、5年前に別れた。
別れた理由は単純。田中の浮気だ。
「ちょっと遊んだだけじゃん。お前が器小さいんだよ」って逆ギレされて、こちらから振った。
それから音信不通だったのに、突然SNSのDMが来た。
「久しぶり。元気?」
無視しようと思ったけど、共通の友人の結婚式があって、そこで会うことになってしまった。
そして結婚式の二次会。
田中が近づいてきた。
「よお、久しぶり。相変わらず可愛いな」
「久しぶり」
私は社交辞令で返した。正直、もう何の感情もない。
「で、彼氏は?まだ独身?」
「まあね」
実は今、婚約者がいる。でも田中に言う必要はないと思って黙っていた。
すると田中がニヤニヤしながら言った。
「やっぱりな。お前、俺以外とは上手くいかないタイプだもんな」
は?
「俺たち、相性良かったし。お前、まだ俺の事を好きなんだろ?今度ご飯でも行こうか」
私は耳を疑った。
こいつ、何言ってるんだ?
「いや、別に好きじゃないけど」
「照れるなよ。わかってるって。お前、SNSで俺の投稿にいいねしてたし」
「それ、間違えて押しただけだけど」
「まあまあ、素直になれよ。俺も最近彼女と別れたし、ちょうど良かったなって思って」
この勘違い具合、すごい。
「ごめん、興味ない」
「強がるなよ。お前、俺のこと忘れられないんだろ?」
「忘れたよ。5年前に」
「嘘つけ。絶対まだ引きずってる。お前、俺が初めての男だったし」
もう呆れを通り越して笑えてきた。
「田中くん、自意識過剰すぎない?」
「過剰じゃないって。お前の気持ち、わかるもん。女は初めての男を忘れられないっていうし」
「それ、誰情報?」
「ネットで見た」
「ネット鵜呑みにしすぎ」
でも田中は聞いてない。
「だからさ、また付き合おうよ。俺も大人になったし、浮気とかしないから」
「遠慮します」
「なんで?俺、お前のこと好きだったし」
「浮気したくせに?」
「あれは若気の至りっていうか…でももう反省してるし」
「反省してるなら、5年前に謝れば良かったのに」
「それは…まあ、男のプライドってあるじゃん」
「知らないよ」
田中がだんだんイライラしてきた顔をした。
「お前、強情だな。素直に『嬉しい』って言えばいいのに」
「嬉しくないから」
「本当は嬉しいくせに」
流石にしつこいと思い、婚約者がいる事を伝えると…
【続き】
「本当に嬉しくない。っていうか、私、婚約してるんだけど」
田中の顔が固まった。
「は?婚約?嘘だろ」
「嘘じゃない。来月入籍する」
「ちょっと待て。誰と?」
「あなたには関係ない人」
田中は明らかに動揺していた。
「嘘だろ…お前、俺のこと待ってると思ってたのに」
「なんで待たなきゃいけないの?」
「だって俺たち、運命だったじゃん」
「運命?浮気されて振った相手が運命なわけないでしょ」
「あれは俺が悪かった。でもお前、まだ俺を許してないの?」
「許すも何も、もうどうでもいいの。過去の人だから」
田中が焦り始めた。
「待って、ちょっと待って。婚約とか早まるなって。その男より俺の方がいいって」
「何を根拠に?」
「だって俺、お前のこと全部知ってるし」
「5年前の私ね。今の私は知らないでしょ」
「それは…でも俺の方が長く付き合ってたし」
「だから?」
田中は必死な顔になった。
「なあ、マジで考え直せって。その男、絶対俺より劣ってるって」
「会ったこともないのに、よく言えるね」
「だって俺、お前の初めての男だぞ?特別だろ」
「特別に最悪だった」
田中の顔が真っ赤になった。
「ちょっと、そこまで言うか?」
「だってそうじゃん。浮気するわ、謝らないわ、逆ギレするわ。最悪だった」
「俺だって若かったんだよ!」
「若くても浮気しない人はしないよ」
「お前…俺のこと、本当に何とも思ってないの?」
「うん。何とも思ってない」
田中はショックを受けた顔をした。
「マジで?ちょっと、冷たくない?」
「冷たくないよ。普通だよ。5年も前に別れた元彼に、何の感情もないのは普通」
「でも俺は…お前のこと、ずっと気になってたんだよ」
「それはあなたの勝手でしょ。私には関係ない」
田中は何も言えなくなった。
その時、婚約者の山田さんが迎えに来てくれた。
「お疲れ様。もう帰ろうか」
「うん」
私は山田さんの腕を取った。
田中が「え、この人が婚約者?」って驚いた顔で見てる。
山田さんはイケメンで、高身長、高収入。誰が見ても田中よりハイスペック。
「じゃあね、田中くん。幸せになってね」
私たちは手を繋いで会場を出た。
後ろから田中が「待てよ…」って言ってたけど、無視した。
車の中で、山田さんが笑いながら言った。
「あの人、元彼?めっちゃ見てたけど」
「うん。勘違いがすごい人だった」
「俺のこと、すごい睨んでたよ」
「だって、あなたの方が全てにおいて上だもん。悔しかったんでしょ」
「君を大切にしなかった人が悪いよ」
山田さんは優しい。私を大切にしてくれる。
それから数日後、田中からSNSのDMが来た。
「この前はごめん。でもまだお前のこと好きだ。その男より俺の方が絶対いい。考え直してくれ」
私は冷静に返信した。
「もう一度言います。私はあなたのことを何とも思っていません。婚約者がいて幸せです。もう連絡しないでください」
田中から返信が来た。
「お前、変わったな。冷たくなった」
「変わってないよ。あなたが勝手に私を『まだ自分を好きな女』だと思い込んでただけ」
「俺のこと、本当に忘れたのか?」
「はい。あなたのことを思い出すのは、こうやって連絡が来た時だけです」
「ひどい…」
「ひどいのはあなたです。浮気して、謝らなかったのに、5年後に『まだ好きだろ』って。どんな自信があるんですか?」
田中は既読スルーした。
その後、共通の友人から聞いた話。
田中は結婚式の後、他の友人にも「元カノがまだ俺に未練タラタラで困る」って言いふらしてたらしい。
でも私が婚約者とラブラブな写真をSNSにアップしたら、田中が病んだらしい。
「嘘だろ、あいつ本当に幸せそう」「俺、フラれたのかよ」ってずっと言ってるとか。
友人が「お前が勝手に勘違いしてただけだろ」って言ったら、田中は何も言い返せなかったって。
今、私は山田さんと結婚して、幸せに暮らしている。
田中のことは、本当にどうでもいい。
勘違いして、自信満々で「まだ好きだろ」って言ってきたけど、残念でした。
私はもっといい人と結婚しました。
元彼へ。
女は、あなたのことなんて忘れてるから。
自意識過剰、恥ずかしいよ。


コメント