「あのさ…全部溶けた」
「は?」
「株が暴落して、200万円も全部なくなった。いや、正確には手数料とかで借金が20万円くらい…」
私の中で何かがプツンと切れた。
「私の500万円が…消えた?」
「ごめん。でも投資にはリスクがあるから。これは勉強代だと思って」
勉強代?
私の10年が、夫の「勉強代」?
「返してよ。今すぐ500万円返して」
「無理に決まってるだろ。もう無いんだから」
夫は開き直っていた。
私は次の日、弁護士事務所に行った。
弁護士は私の話を聞いて、はっきり言った。
「これは不法行為です。配偶者でも、相手の財産を無断で使用することは違法です。返還請求できます」
私は弁護士を通じて、夫に500万円の返還請求をした。
夫は「夫婦なのに弁護士とか大げさだろ」と笑っていたが、内容証明郵便が届くと顔色が変わった。
「お前、本気かよ」
「本気です。私の10年分の貯金を勝手に使って、全部溶かして、謝りもしない。信じられません」
「でも俺、そんな金ないって」
「じゃあ分割でも構いません。月10万円ずつでも返してください」
夫は渋々了承するかと思いきや、逆ギレした。
「お前が細かいことでガタガタ言うから、もう一緒にいられねえよ!」
「じゃあ離婚しましょう」
「は?」
「離婚して、財産分与でちゃんと返してもらいます」
夫は何も言えなくなった。
私は夫の両親にも事実を報告した。義父と義母を家に呼んで、経緯を全て説明した。
義父が激怒した。
「お前、何やってるんだ!嫁の貯金を勝手に使って全部溶かしただと!?」
「父さん、でも投資は…」
「黙れ!しかも謝りもしないのか!」
義父は夫の頭を叩いた。
義母も「信じられない」と呆れ顔。
義父が私に頭を下げた。
「申し訳ございません。息子がこんなことをして…」
「義父さん、謝らないでください。悪いのは彼です」
義父は夫に言った。
「お前、すぐに500万円返せ。俺とお母さんの老後資金があるから、それを貸してやる。その代わり、お前は俺たちに月10万円ずつ返済しろ」
夫は青ざめた。
「父さん、そんな…」
「嫌なら自分でなんとかしろ。借金してでも返せ」
結局、夫は義父から500万円を借りて、私に返すことになった。
そして私は、離婚を決意していた。
「お金は返してもらいます。でも、もう一緒にはいられません」
「ちょっと待てよ。金返すんだから、許してくれよ」
「許せません。あなたは私の同意なく私の財産を使い、全部失って、開き直った。信用できません」
夫は何度も謝ったけど、私の気持ちは変わらなかった。
離婚調停を経て、離婚が成立した。
夫は義父への返済で、毎月10万円を払い続けることになった。小遣いはゼロ。
義父からは「5年かけて返せ」と言われていたらしい。
離婚後、私は新しいマンションを借りて、一人暮らしを始めた。
取り戻した500万円は、今度こそ誰にも触らせない。
半年後、共通の友人から聞いた。
元夫は義父への返済で生活が苦しく、実家に出戻りしたらしい。義父は毎月「返済はどうだ」と確認し、元夫は小遣いもなく、趣味の株取引も禁止されているという。
「自業自得だな」と友人は言った。
私も同感だった。
人の大切なお金を勝手に使い、ギャンブル的な投資で全部溶かし、反省もしない。
そんな人と一緒にいる未来なんて、考えられなかった。
今、私は穏やかな日々を過ごしている。
500万円は無事に戻ってきたし、元夫とは完全に縁が切れた。
因果応報。
元夫は自分のやったことの代償を、義父への返済という形で、あと4年半も払い続けるのだ。
ざまあみろ、と思った。


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