兄は満足そうに笑った。
私は弁護士に相談して、正式に相続放棄の手続きをした。
家庭裁判所に書類を提出し、相続放棄が受理された。
兄と弟は、実家と土地を半分ずつ相続した。
父の遺産は、実家の土地と建物。都心に近く、評価額は3000万円ほど。
「これで実家は俺たちのものだな。将来売れば大金になるぞ」
兄は嬉しそうだった。
それから1ヶ月後。
母の葬儀の時に買った喪服代、父の入院中に立て替えた医療費、通院の交通費。私が立て替えていた金額は合計で50万円ほどあった。
私は兄に連絡した。
「あの、立て替えてたお金、返してもらえる?」
兄は不機嫌そうに答えた。
「は?何の金だよ」
「父の入院中の医療費とか、私が立て替えてた分」
「お前、相続放棄したんだろ?だったら金も請求する権利ないんじゃないの」
「それは別でしょ。立て替えたお金は返してもらう権利が…」
「うるせえな。お前が勝手に払ったんだろ。知らねえよ」
兄は一方的に電話を切った。
私は呆然とした。
数日後、弟からLINEが来た。
「姉ちゃん、兄貴から聞いたけど、金の請求とかやめてくれよ。せこいって」
私は怒りで手が震えた。
立て替えたお金を返してほしいと言っただけなのに、「せこい」?
私は返信しなかった。
それから2ヶ月後。
兄から慌てた様子で電話がかかってきた。
「おい、大変なことになった!」
「何?」
「親父に借金があったんだよ!しかも2000万円も!」
私は驚いた。
「え、借金?」
「ああ。消費者金融とか、色んなところから借りてたみたいだ。督促状が実家に届きまくってる」
父は生前、事業に失敗していたことがあった。でもそれは随分前の話だと思っていた。
「それで?」
「それでって…お前も相続人だろ!一緒に払えよ!」
私は冷静に答えた。
「私、相続放棄したよね」
「それは…遺産の話だろ!借金は別だ!」
「いや、相続放棄したら、遺産も借金も全部放棄したことになるの。だから私には支払い義務ないよ」
「そんな!ふざけんな!お前も払えよ!娘だろ!」
「娘?嫁に行ったから他人だって言いましたよね」
兄は何も言い返せなかった。
「それに、私が立て替えたお金も返してくれなかったですよね。せこいって言われましたけど」
「あれは…悪かったよ!だから今回は…」
「無理です。私は相続人じゃありません」
私は電話を切った。
数日後、今度は弟から電話があった。
「姉ちゃん、頼むよ。俺たちだけで2000万円なんて払えないって」
「私には関係ないよ」
「そんな冷たいこと言わないでよ!家族だろ!」
「家族?嫁に行ったから他人だって言ったのは弟だよね」
弟は何も言えなくなった。
「それに、立て替えたお金を返してって言った時、せこいって言ったよね?」
「あれは…ごめん」
「もう遅いよ。さようなら」
電話を切った。
その後、兄嫁からもLINEが来た。
「あなた、本当に払わないの?私たちには子供もいるのよ!人としてどうかと思うわ!」
私は返信した。
「私を排除したのは、あなたたちです。それに、立て替えたお金も返してくれませんでしたよね」
「あんな少額で恨んでたの!?器が小さいわね!」
「少額?あなたたちにとっては50万円は少額なんですね。でも2000万円は払えないんですね」
兄嫁は既読無視した。
数週間後、兄から最後の電話があった。
「頼む!本当に困ってるんだ!少しでいいから援助してくれよ!」
「無理です」
「お前、血も涙もないのか!」
「血も涙もない?嫁に行ったから他人だって言ったのは誰ですか?遺産いらないよなって言ったのは誰ですか?」
兄は黙った。
「それに、私が父の世話をしてないって嘘までつきましたよね。私、毎週通ってたのに」
「それは…」
「立て替えたお金も返さず、せこいと馬鹿にしましたよね。でも今、困ったら頼ってくる。都合が良すぎませんか?」
「ごめん…本当にごめん…」
「謝られても、もう信用できません。さようなら」
私は電話を切り、兄と弟の連絡先をブロックした。
結局、兄と弟は2000万円の借金を背負うことになった。
実家を売却しても借金は残り、兄は自分の家も売ることになったらしい。
風の噂で聞いた。
私は今、夫と子供と穏やかに暮らしている。
あの時、兄と弟が私を排除しなければ、私も借金を背負っていたかもしれない。
でも、彼らは欲と差別心で私を排除した。
立て替えたお金すら返さず、せこいと馬鹿にした。
そして今、その代償を払っている。
因果応報。
「お前は嫁に行ったから遺産いらないよな」
あの言葉が、結果的に私を救った。
私は何も悪いことをしていない。
ただ、彼らの決断に従い、そして彼らの態度を忘れなかっただけ。
もう二度と、兄や弟に関わるつもりはない。



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