「妻の介護、よろしく頼むよ」
その日から地獄が始まった。
朝5時起床。義母の朝食を作り、トイレの介助。私も出勤準備をして7時に家を出る。
夫は何もせず会社へ。
夕方6時に帰宅すると、義母が「お腹空いた」と待っている。急いで夕食を作り、食事介助。片付け、入浴介助。
義父も「俺の分も頼む」と、完全に便乗している。
夫は帰宅後、ソファでテレビ。「仕事で疲れてる」と何もしない。
私の睡眠時間は1日4時間になった。
1週間後、私は限界だった。
会社でミスが増え、集中できない。体も重い。
2週目に入ると、私は朝起きられなくなった。
「ちょっと、朝ごはんまだ?」
義母の声が聞こえる。でも体が動かない。
「お前、大丈夫か?」
夫が心配そうに見る。
「もう…無理…」
私は泣きそうだった。
「でも母さんの世話は?」
それが夫の第一声。私の心配じゃない。
義母も「嫁なんだからしっかりして」と言う。
その日、私は会社を休んだ。上司から電話がかかってきた。
「田中さん、最近様子がおかしいけど大丈夫?」
私は事情を説明した。
「それは…労働に支障が出てますね。診断書を取って、休職も検討しましょう」
上司のアドバイスで、私は心療内科を受診した。
診断書には「過労とストレスによる適応障害」と書かれていた。
そして私は地域包括支援センターに相談した。
「骨折のリハビリなら、介護保険が使えますよ」
ケアマネージャーが家に来て、義母の状態を確認した。
「デイサービスと訪問リハビリを週3回ずつ入れましょう。訪問介護も週2回」
義母が文句を言った。
「息子の嫁がいるのに、他人に頼むの?」
ケアマネが冷静に答えた。
「介護は家族だけでやるものではありません。お嫁さんも仕事をされていますし、既に体調を崩されています」
その夜、私は夫に宣言した。
「診断書が出ました。もう介護はできません」
「でもどうするんだ」
「プロに任せます。ケアマネさんが手配してくれました。費用は折半で」
義父が口を出した。
「金がかかるじゃないか」
「私の医療費もかかってます。過労で体調を崩したので。請求しますか?」
義父は黙った。
数日後、私の母が見舞いに来た。
痩せた私を見て、母は義母と夫を睨んだ。
「娘を壊すまで働かせて、よくそんな顔してられるわね」
義母と義父は気まずそうに視線を逸らした。
夫も実母の前では何も言えない。
介護サービスが始まると、義母の世話は劇的に楽になった。
プロのヘルパーさんが来て、リハビリスタッフが来て。私がやることはほとんどなくなった。
すると義母が言い出した。
「やっぱり自分の家に帰るわ。他人に世話されるのは落ち着かない」
「そうですか。お大事に」
私は冷たく答えた。
義両親が帰った後、夫が言った。
「お前、冷たすぎないか」
「あなたが最初から相談してくれれば、こんなことにはなりませんでした」
数日後、夫に請求書が届いた。
「介護サービス利用料、2週間分35万円。折半で17万5千円」
夫の顔が青ざめた。
「こんなにするのか…」
「私に任せておけば無料だったのにね」
私は皮肉を込めて言った。
「ごめん…」
「今後は何か決める時、必ず事前に相談してください。私も家族の一員です」
夫は頷いた。
あの2週間で、私は学んだ。
家族だからって、無償で何でもやる必要はない。
プロに頼めることは頼んでいい。
そして、自分の体を壊してまで尽くす必要はない。
夫も学んだはずだ。
妻を大切にしないと、高くつく。
因果応報。
勝手に決めた代償は、17万5千円と妻の信頼だった。


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