大輔の会社が、私の会社に営業に来たのだ。
私たちの会社が開発した医療機器の部品を、大輔の会社が納入したいと申し出てきた。
大口契約で、年間5000万円規模の取引。
会議室に入ってきた営業チームの中に、大輔がいた。
「本日はお時間をいただき—」
大輔は私を見て固まった。
「え…?」
私は冷静に言った。
「初めまして。当社の共同創業者です」
大輔は真っ青になった。
「お、お久しぶりです…」
「お久しぶりですね」
会議が進む中、大輔はずっとうつむいていた。
会議の最後、私は言った。
「検討させていただきます。結果は後日ご連絡します」
大輔の上司が喜んで帰っていったが、大輔だけは絶望的な顔をしていた。
数日後、私たちは別の会社との取引を決めた。
大輔の会社には断りの連絡を入れた。
大輔から必死のメールが来た。
「頼む。この契約、俺が取ってくるって上司に言っちゃったんだ。頼むから考え直してくれ」
私は返信しなかった。
さらに数日後、大輔がボーナスカットされたと友人から聞いた。
大口契約を逃した責任を取らされたらしい。
大輔から最後のメールが来た。
「お前が医者で金持ちだって知ってたら、もっと大切にしてた。なんで教えてくれなかったんだ」
その言葉を見て、私は確信した。
大輔は私を愛していたんじゃない。
「可哀想なシングルマザーを助けてあげる優しい俺」に酔っていただけ。
もし私が本当に貧しかったら、結婚後も「養ってやってる」という態度だったはず。
半年後、私は医師として職場復帰した。
子供の急病にも対応できる、育児に理解のある病院で。
そこで出会った小児科医の先生と付き合い始めた。
彼は最初から私の経歴を知っていた。
「シングルマザーだって?それは大変でしたね。でも、子供がいるとか関係ないです。あなた自身が素敵だから」
彼はそう言ってくれた。
娘も「この先生、優しいね」と懐いている。
1年後、私たちは結婚した。
彼は娘を本当の娘のように大切にしてくれる。
「養ってあげる」じゃなく、「一緒に家族になろう」と言ってくれた。
大輔は今でも同じ会社で働いているらしい。
友人から聞いた。
「元カレ、すごく後悔してるみたい。お前が医者だったなんてって」
「もう関係ないわ」
私は幸せだ。
私と娘を対等に尊重してくれる人と一緒にいられて。
因果応報。
人を見下した代償は、結婚のチャンスと大口契約、そしてボーナスを失うこと。
娘が寝る前に言った。
「ママ、新しいパパ、大好き」
その言葉が、私の選択が正しかったことを証明してくれた。
本当に大切なのは、肩書きやお金じゃない。
人としての尊厳だ。
その言葉を、私は一生忘れない。



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