その言葉に、私はモヤモヤした気持ちになった。
数日後、大輔の友人たちと食事をした。
「シングルマザーと付き合うなんて、大輔は心が広いよな」
友人の一人がそう言った。
「まあな。普通は子持ちとか避けるけど、俺は娘ちゃんも可愛いし」
大輔が笑いながら答えた。
「でも、パート主婦でしょ?経済的に大丈夫なの?」
「だから俺が支えてやるんだよ。男として当然だろ」
私は黙って聞いていた。
その夜、娘が突然高熱を出した。
「大輔、救急病院に連れて行く。車出してくれる?」
「え、今から?明日の朝でいいんじゃない?」
「39度超えてるの。今すぐ行かないと」
「…わかったよ」
大輔は不機嫌そうに車を出してくれた。
病院に着くと、当直の医師が診察してくれた。
「意識はしっかりしてますね。ただ、CRPの値を確認したいので採血します」
医師が説明すると、私は聞いた。
「白血球の分画も見ていただけますか?細菌感染の可能性を確認したいので」
医師は少し驚いた顔をした。
「ああ、もちろんです。お詳しいですね」
「以前、医療関係の仕事をしていたので」
採血の結果が出た。
「CRP 8.5、白血球 15000、好中球優位ですね」
「細菌感染の可能性が高いということですね。抗生剤の投与をお願いします」
私が言うと、医師は頷いた。
「そうですね。セフェム系で開始します」
医師は私をじっと見て、言った。
「あの…もしかして、先生ですか?」
「え?」
大輔が横で驚いた顔をした。
「いえ、専門的な用語をスラスラと…」
「ああ、以前は医師をしていました」
私は答えた。
医師は驚いた。
「そうだったんですか。どちらで?」
「○○大学病院の外科で。今は育児のために休職中です」
「○○大学病院!あそこは有名ですよね。私の先輩も何人かいます」
医師は急に丁寧な口調になった。
「もしかして、消化器外科の○○先生ですか?」
「はい、そうです」
「やっぱり!学会でお見かけしたことがあります。先生の論文、読ませていただきました」
大輔は完全に固まっていた。
病院から帰る車の中、大輔は黙っていた。
「大輔、どうしたの?」
「…医者だったの?」
「うん。言ってなかったっけ」
「聞いてない。パートって言ってたじゃん」
「今はパートだよ。医師は休職中だから」
「なんで黙ってたの?」
「聞かれなかったから」
大輔は複雑な顔をしていた。
翌日、私は大輔に本当のことを全て話すことにした。
「実は、今も医療系スタートアップの共同創業者として働いてる」
「え?」
「医療機器の開発会社。友人と3人で立ち上げたの。今は軌道に乗って、私は経営だけ」
「それって…」
「年収は会社からの配当で3000万くらい。資産は3億円ほど」
大輔は言葉を失った。
「でも、なんでスーパーでパート…」
「ちょっとは外で働いてないと、気分転換にならないの。週3日、4時間だけ働いて、あとは娘との時間」
「じゃあ、養育費がないとか、生活が大変とか…」
「全部嘘じゃないけど、お金に困ってるわけじゃない」
大輔は頭を抱えた。
「なんで教えてくれなかったの?」
「あなたが私をどう見てるか知りたかったから」
「どういうこと?」
「『子持ちと付き合う俺、優しい』『パートで大変だろ』『俺が養ってあげる』って、全部上から目線だったよね」
大輔は黙った。
「あなたは私を『可哀想なシングルマザー』として見てた。それが本当の優しさなのか、確かめたかった」
「違う、俺は本気で—」
「本気で私を見下してたのよ」
私は続けた。
「もし私が本当にお金に困ってる貧しいシングルマザーだったら、あなたは結婚後もずっと『俺が養ってやってる』って態度だったでしょうね」
「そんなこと…」
「あるわよ。お義母さんも『可哀想』『大輔がしっかり支えないと』って言ってた。私は同情の対象だったのよ」
大輔は反論できなかった。
「だから、別れましょう」
「待って!」
「もういいの。」
「俺、謝るから」
「謝罪じゃ済まないの。あなたの根本的な考え方の問題だから」
私は立ち上がった。
数日後、大輔の母親から電話があった。
「あなた、医者だったんですって?」
「はい」
「どうして教えてくれなかったの!」
「聞かれなかったので」
「息子が失礼なことを言ったのは謝るわ。だから別れるのは—」
「無理です。お義母さんも私を『可哀想』って言いましたよね」
「それは…」
「今更、医者で資産家だと知って態度を変えるんですね」
私は電話を切った。
翌週、驚くことが起きた。
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