「お前、父さんからの電話無視したのか!」
「仕事中だったから」
「仕事より父さんだろ!」
「違うわ」
私は、はっきりと言った。
「お義父さんは、元気なのよ」
「介護が必要なわけじゃない」
「ただ、私を便利に使いたいだけ」
「そんなことない!」
「あるわよ。この前だって、腰が痛いって嘘ついて呼び出したのよ」
浩二が、黙った。
「あなたも知ってたんでしょ?」
「それは…」
「もう、我慢できない」
私は、荷物をまとめ始めた。
「お、おい、何してんだよ」
「実家に帰るわ」
「ちょっと待てよ!」
浩二が、私の腕を掴んだ。
「離して」
「お前、俺を捨てるのか?」
「捨ててるのは、あなたの方よ」
「私の気持ちを、ずっと無視してきたじゃない」
私は、実家に帰った。
数日後、義母から電話があった。
「美穂さん、ごめんなさい」
義母が、泣いていた。
「お義母さん?」
「主人が…あなたに酷いことをしていたって、今更気づいて…」
「でも、もう遅いわよね…」
義母の声が、震えていた。
「あなたが出ていってから、主人が私に全部やらせるの」
「掃除も、料理も、洗濯も」
「毎日文句ばかり言われて…」
「浩二は?」
「浩二も、『母さんがやればいい』って…」
「私、あなたの気持ちが今ならわかる…」
義母が、泣き続けた。
私は、何も言えなかった。
数週間後、浩二から連絡があった。
「なあ、戻ってきてくれよ」
「嫌よ」
「父さんも反省してるから」
「反省?口だけでしょ」
「違うって。本当に悪かったって」
「信じられない」
私は、電話を切った。
それから半年後。
私は、離婚を決意した。
調停で、浩二は必死に謝った。
「お願いだ。もう一度やり直そう」
「父さんのことは、もう気にしなくていいから」
「遅いわ」
私は、冷たく言った。
「あなたは、私が苦しんでいる時、何もしてくれなかった」
「お義父さんの味方ばかりして」
「私の気持ちを、一度も考えてくれなかった」
浩二は、何も言えなかった。
離婚は、成立した。
それから2年後。
私は、新しい職場で順調に働いていた。
先日、スーパーで義母に会った。
義母は、すっかり老け込んでいた。
「美穂さん…元気そうね」
「お義母さんも」
「私は…全然元気じゃないわ」
義母が、寂しそうに笑った。
「主人の世話、大変で」
「浩二は?」
「浩二も結局、何もしてくれない」
「そう…」
「あなたは、正しかったわ」
「逃げて、正解だった」
義母が、去っていった。
私は、深く息を吐いた。
後悔は、していない。
自分の人生を、取り戻せたのだから。
窓の外を見ると、青空が広がっていた。
【完】


コメント