義母「あなたのお母さんって、清掃の仕事してるんですってね。まあ、恥ずかしい」
義母がニヤニヤしながら言った。私は耳を疑った。
私は30歳の会社員。夫と結婚して2年。義母とは月に1回程度会う関係だったけど、今日の発言で全てが変わった。
「義母さん、それはどういう意味ですか」
「だって清掃員でしょ?うちは医者の家系なのに、あなたの実家とは格が違いすぎるわ」
私の実母は、ビル清掃の仕事をしている。父が早くに亡くなり、母は女手一つで私を育ててくれた。朝早くから夜遅くまで働いて、私を大学まで出してくれた。
その母を、義母が馬鹿にした。
「お母さんは立派に働いて私を育ててくれました。何も恥ずかしくありません」
「まあ、そう怒らないで。でも事実は事実でしょ?私の親戚はみんな医者なのよ。親戚の集まりに、あなたのお母さんを呼ぶわけにはいかないわよね」
義母は笑いながら言った。
夫に後で抗議すると、「母さんはそういう人だから気にするなよ」って。
気にするなって、無理だった。
それから義母は、ことあるごとに私の実家を馬鹿にするようになった。
「あなたの育ちが悪いのは、お母さんが忙しすぎたせいね」
「清掃員の娘がよくうちに嫁げたわね」
「あなたのマナーがなってないのは、お母さんが教育できなかったからよ」
私は毎回怒りを堪えていたけど、ある日、母が義実家を訪ねる機会があった。
私の誕生日に、母が手作りの料理を持ってきてくれたのだ。母は「お義母さんにもどうぞ」と丁寧に挨拶した。
でも義母は、母が持ってきた料理を一瞥もせず、こう言った。
【続き】
「あら、わざわざありがとう。でも私、外で働いてる人が作った料理は衛生面が心配で食べられないのよ」
母の顔が曇った。
「お義母さん、それはどういう…」
「だって清掃の仕事してるんでしょ?ごめんなさいね、私デリケートだから」
私は怒りで震えた。
「義母さん!母を侮辱するのはやめてください!」
「侮辱?事実を言ってるだけよ。それにうちは医者の家系なの。あなたのお母さんとは育ちが違うのよ」
母は「もういいのよ」と私を止めて、静かに帰っていった。
その夜、私は母に電話した。母は泣いていた。
「お母さん、ごめんね。私があんな家に嫁いだせいで」
「ううん、あなたは悪くないわ。でも…少し悲しかったわ」
母の涙声を聞いて、私の中で何かが切れた。
翌日、私は義母の「医者の家系」について調べ始めた。
夫に聞いても「母さんの親戚に医者がいるんだよ」と曖昧な返事。
義父に直接聞いてみると、義父は苦笑いしながら教えてくれた。
「ああ、あれね。妻の従兄弟の息子が医者なんだよ。ほとんど会ったこともない遠い親戚。妻はそれを『医者の家系』って言ってるんだ」
は?
それだけ?
しかも義母自身は専業主婦で、義父は普通のサラリーマン。別に特別な家系でも何でもなかった。
私は真実を知って呆れた。
そんなある日、義母が体調を崩して入院した。
夫に付き添って病院に行くと、担当の看護師さんが優しく対応してくれた。
「あの…もしかして田中さんのお嬢さんですか?」
看護師さんが私に声をかけてきた。田中は私の実母の旧姓だ。
「はい、そうです」
「お母様とは仕事でご一緒したことがあるんです。本当に素晴らしい方で、いつも丁寧に仕事されて。お嬢さんを大学に行かせるために頑張ってるって聞いて、尊敬してました」
私は嬉しくて涙が出そうになった。
その時、義母がナースコールを押して、看護師さんを大声で呼びつけた。
「ちょっと!水が欲しいんだけど!早くして!」
看護師さんが「はい、すぐにお持ちします」と丁寧に対応しても、義母は「遅い!もっと早く動きなさい!」と横柄な態度。
私は義母の態度に嫌悪感を覚えた。
病室を出た後、看護師さんに謝った。
「すみません、義母が失礼な態度で」
「いえいえ、慣れてますから。でも…お義母様、あまり患者さんの中でも評判良くないんです。看護師さんたちに命令口調で、お見舞いに来た他の患者さんのご家族にも『ここは個室よ。騒がないで』って怒鳴ったりして」
私は恥ずかしくなった。
そしてその日の夕方、私は義母の病室で、決意を持って言った。
「義母さん、お話があります」
「何?」
「私の母を馬鹿にするのは、今日で最後にしてください」
「は?何言ってるの」
「母は清掃の仕事をして、私を育ててくれました。その仕事を恥ずかしいと思ったことは一度もありません。むしろ誇りです」
「でも…」
「義母さんは『医者の家系』って言ってますけど、調べました。遠い親戚に医者が一人いるだけですよね。それで偉そうにしてたんですか?」
義母の顔が真っ赤になった。
「それは…」
「母はどんな仕事でも一生懸命やって、私を大学まで出してくれました。義母さんは専業主婦で、義父さんの稼ぎで生活してきただけですよね。母を馬鹿にする資格、ありますか?」
義母は何も言えなかった。
隣にいた夫も、初めて義母に言った。
「母さん、妻の言う通りだよ。義母さんの態度、ずっとおかしいと思ってた。お義母さんを馬鹿にするのはもうやめて。次やったら、俺たち距離を置くから」
義母は震えながら、小さい声で言った。
「ご…ごめんなさい」
でも私の心は動かなかった。
「謝罪は、私ではなく私の母にしてください。直接電話して、今まで馬鹿にしたこと全て謝ってください。それができないなら、もう義母さんとは会いません」
義母は渋々、私の母に電話をかけた。
「あの…申し訳ございませんでした。失礼なことを言って…」
母は優しく「もういいんですよ」と答えていた。
電話を切った後、義母は私に言った。
「あなたのお母さん…優しい人ね」
「母はそういう人です。だから私は母を誇りに思ってます」
それから義母は、私の実家を馬鹿にすることはなくなった。
退院後も、義母は以前より謙虚になった。私の母に会った時も、丁寧に挨拶するようになった。
でも私は、義母を完全に許したわけじゃない。
母を傷つけた言葉は、簡単には消えない。
ただ、義母が変わろうとしてることは認める。
そして私は改めて思った。
どんな仕事でも、一生懸命働いて家族を支える人は、本当に立派だ。
職業で人を馬鹿にする人は、結局自分が一番恥ずかしい人間なのだと。
母は今も変わらず、清掃の仕事を続けている。
私は母を、心から尊敬している。



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