「あの、ご家族の方からお電話いただいたんですが…」
「家族?誰からですか?」
「お義母様だとおっしゃっていました。『嫁の治療を中止してください。家族として反対です』とのことでした」
私は耳を疑った。
「それ、私は知りません。治療は続けます」
「承知しました。今後、ご本人様以外の方からのご連絡は受け付けないようにいたします」
電話を切った後、手が震えた。
怒りで体が熱くなる。
義母に電話した。
「お義母さん、クリニックに電話しましたか?」
「ああ、したわよ。あなたのためよ。そんな治療、体に悪いでしょ」
「私のため?私の治療を勝手に中止させようとしたんですよね?」
「だって、自然に反してるじゃない。神様が授けてくれないなら、それが運命なのよ」
「私の体のことです。口出ししないでください」
「口出し?私は義母よ?孫ができるかどうかは私にも関係あるわ」
「だからって、治療を妨害する権利はありません」
義母は逆ギレした。
「あなた、私に向かってその態度?息子の嫁のくせに。大体、そんな治療で生まれた子供なんて、普通じゃないわよ」
その言葉で、何かが切れた。
「お義母さん、もう二度と連絡しないでください」
電話を切った。
夫が帰ってきて、事情を話した。
「母さん、そんなことしたのか?」
「そうよ。クリニックに電話して、治療を中止させようとしたの」
「それは…でも母さんも心配してたんだよ。悪気はないと思う」
「悪気がない?私の治療を妨害したのよ?」
「だから、母さんなりに心配してたんじゃないかな」
私は絶望した。
夫も義母の味方なんだ。
「あなた、私の敵なの?」
「敵って…大げさだろ」
「大げさじゃない。私は子供が欲しくて、必死で治療してる。体も心もボロボロになりながら。それをお義母さんが妨害して、あなたは『悪気はない』って。私の味方じゃないんだね」
夫は黙った。
その夜、私は決めた。
もう、この人たちとはやっていけない。
翌日、弁護士に相談した。
弁護士は私の話を聞いて、顔を曇らせた。
「義母さんの行動は、医療への不当な干渉です。あなたの治療を受ける権利を侵害しています」
「離婚できますか?」
「できます。義母の妨害行為と、それを庇う夫の態度は、婚姻関係の破綻原因になり得ます」
私は離婚を決意した。
夫に「離婚したい」と伝えると、夫は驚いた。
「は?何で?母さんのことくらいで?」
「くらい?私の治療を妨害されたのよ?子供が欲しいって、私たちの夢だったよね?それをお義母さんが壊そうとして、あなたは庇った。もう無理」
「待ってくれよ。話し合おう」
「話し合いは終わり。弁護士に任せる」
離婚調停が始まった。
私は義母がクリニックに電話した事実、義母の暴言の録音、夫が義母を庇ったLINEのやり取りを証拠として提出した。
調停委員も「義母さんの行動は問題があります」と言ってくれた。
夫は「母さんを止められなかった俺が悪い。やり直そう」と言ってきたけど、私の気持ちは変わらなかった。
「あの時、私の味方をしてくれなかった。一番辛い時に。もう信用できない」
離婚は成立した。
財産分与もしっかりもらった。
離婚後、私は1人で不妊治療を続けた。
新しいクリニックで、新しい医師と出会った。医師は親身になって相談に乗ってくれた。
「焦らなくていいですよ。あなたのペースで」
その言葉に救われた。
治療を続けながら、私は少しずつ元気を取り戻していった。
そして離婚から2年後。
妊娠した。
信じられなかった。検査薬を何度も見直した。
クリニックで確認すると、医師が笑顔で言った。
「おめでとうございます。順調ですよ」
涙が止まらなかった。
出産は無事だった。元気な女の子が生まれた。
娘を抱いた瞬間、全ての苦労が報われた気がした。
今、娘は2歳。毎日が幸せだ。
先日、共通の友人から聞いた話。
元夫は再婚したけど、また義母の干渉が酷くて、新しい奥さんとも上手くいってないらしい。
義母は相変わらず「嫁が悪い」と言ってるとか。
私は思った。
義母は変わらない。夫も変わらなかった。
だから私が変わった。あの環境から離れた。
そして今、私は娘と幸せに暮らしている。



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