「お宅の娘さん、もう少し教育されてたら良かったんですけどね」
母が泣きそうな顔をした。
父は黙って拳を握っていた。
「あなた、失礼よ」
私が止めると、夫は「事実でしょ」と笑った。
義母も「うちとは格が違うのよね」と同調した。
私は悔しくて、夜一人で泣いた。
そんなある日、実家から電話がかかってきた。
「おじいちゃんが危篤なの。すぐに来て」
母の声が震えていた。
私と夫は急いで実家に向かった。
実家に着くと、親戚が大勢集まっていた。
「こんなボロ家に人入るの?潰れないか心配だな」
夫が小声で言った。
私はその言葉を聞いて、何かが切れた。
でも今は祖父のことが先だ。
祖父の部屋に向かうと、祖父は穏やかな顔で眠るように息を引き取った。
翌日、葬儀の準備が始まった。
そして葬儀当日。
私は驚いた。
参列者が300人以上いる。
しかも、地元の名士、市長、県議会議員、大企業の社長たち。
夫も驚いて「え、何これ?何でこんなに人が?」
葬儀は超豪華だった。祭壇も立派で、花も溢れるほど。
弔辞では「地元の発展に多大な貢献をされた」「偉大な実業家」という言葉が並ぶ。
夫は混乱している。
「義父さん、おじいちゃんって何してた人なの?」
父が静かに答えた。
「父は地元の大地主だったんだ。この辺りの土地のほとんどを所有していた」
「え?」
「不動産収入だけで年間数千万円あった。でも父は質素に暮らすことを好んだ」
葬儀後、遺産相続の話になった。
弁護士が説明する。
「故人の遺産は、土地、不動産、株式、預金を合わせて約10億円になります」
夫の顔が真っ青になった。
「10億…?」
父が続ける。
「父の遺言で、ほとんどを私が相続することになった」
夫は呆然としている。
「義父さん、工場勤務って…」
「ああ、それは私の選択だ。父の会社を継ぐこともできたが、自分の手で働きたかった。金があっても人を見下すような人間にはなりたくなかった」
父が夫を見た。
「娘もそう育てたつもりだったが」
夫は何も言えない。
その夜、親戚の集まりで。
私の従兄弟(弁護士)が夫に話しかけた。
「君のご実家、調べさせてもらったよ」
「え?」
「15年前に自己破産してるよね。今の家も賃貸でしょ」
夫の顔が凍りついた。
「な、何を…」
「君が実家のことを馬鹿にしてるって聞いたからね。興信所に依頼したんだ」
従兄弟は冷たく言った。
「君の父親、一部上場企業の管理職って言ってるけど、実際は子会社の課長職。年収600万程度。借金の返済で生活カツカツらしいね」
「やめてください…」
「君の母親も、キャリアウーマンって言ってるけど、実際はパート勤務。『格が違う』ってどの口が言ってるの?」
親戚一同が夫を冷たい目で見ている。
夫は顔を真っ赤にして俯いた。
翌日、夫の両親が実家に来た。
「申し訳ございませんでした」
義父と義母が土下座した。
父は冷たく言った。
「娘を傷つけた罪は重いですよ」
「本当に申し訳ございません」
「帰ってください。もう顔も見たくありません」
父の冷たい言葉に、義両親は何も言えず帰っていった。
帰りの車の中、夫が口を開いた。
「ごめん…俺、最低だった」
私は夫を見ずに答えた。
「今更謝られても遅いよ」
「え?」
「あなたは私の大切な家族を傷つけた。お母さんを泣かせた。お父さんを怒らせた」
「本当にごめん。もう二度と—」
「離婚します」
夫の顔が青ざめた。
「ちょっと待って。俺、反省してるから」
「反省?祖父の遺産が10億円だと知ってから急に態度変えたよね。それって反省?」
「そうじゃなくて—」
「もし祖父が本当に貧しかったら、あなたは一生馬鹿にし続けたんでしょ」
夫は何も言えなかった。
家に帰ってすぐ、私は弁護士に連絡した。
離婚調停の申し立て。
夫は「考え直してくれ」と何度も頼んできたが、私の決意は固かった。
「あなたは人を見た目や肩書きで判断する。そんな人とは一緒にいられない」
調停では、私の両親の証言も提出した。
食事会での夫の暴言、義母の侮辱的発言。
全て記録していた。
調停委員も「これは酷い」と眉をひそめた。
離婚が成立した。
慰謝料300万円。夫が支払う。
夫は「やり直せないか」と最後まで言っていたが、私は首を横に振った。
「あなたは私の家族を『ボロ家』『ブルーカラー』『教育がなってない』と言った。その言葉、一生忘れない」
離婚後、私は実家近くに引っ越した。
父と母は「帰ってきてくれて嬉しい」と喜んでくれた。
祖父の遺産の一部を父が私に分けてくれた。
「これでゆっくり次の人生を考えなさい」
先日、従兄弟から連絡があった。
「元旦那、会社でも評判落ちてるらしいよ。『奥さんの実家を馬鹿にして離婚された男』って」
「そう」
「ざまあみろだね」
私はもう元夫のことはどうでもいい。
大切なのは、これから。
質素でも誠実に生きた祖父。
人を見下さず、自分の手で働いた父。
家族を支え続けた母。
その背中を見て育った私。
元夫は一生、自分の愚かさを後悔すればいい。
私は私の人生を、胸を張って生きていく。
見栄や虚栄ではなく、本当の豊かさを大切に。
祖父が教えてくれたこと。
それを忘れずに、これからも生きていく。
因果応報。
人を馬鹿にした代償は、妻と信用を失うことだった。



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