私は何も言わなくなった。
でも投稿は続けた。
2年後、フォロワーは1万人。
案件も増えて、月に3〜5万円になった。
でも健太には言わなかった。
言ってもまた馬鹿にされるだけだから。
3年後、フォロワーは10万人。
レシピ本の出版依頼が来た。
「本を出しませんか?」
夢のような話だった。
でも健太には相談しなかった。
相談しても「売れるわけない」と言われるのが目に見えていた。
私は一人で契約書にサインした。
本は出版され、増刷が決まった。
印税が振り込まれた。
月の収入は50万円を超えた。
そして今年、フォロワーは30万人になった。
企業案件、書籍の印税、オンラインサロン。
月の収入は100万円。
年収で1300万円。
健太の倍だった。
でも健太は何も知らない。
私が昼間にスマホを触っていると「暇そうだな」と言う。
夜、子供を寝かせた後にパソコンを開くと「まだインスタやってんの?」と笑う。
もう疲れた。
いつか分かってもらえると思っていた。
でも無理だった。
健太は私の努力を一度も認めてくれなかった。
ある月曜日の朝。
息子の翔太が学校に行く準備をしていた。
「ママ、今日国語で作文発表するんだ」
「そうなの?何書いたの?」
「『僕のママ』って題で書いた」
「へえ、どんなこと書いたの?」
「ママはすごい人だって書いた」
翔太は嬉しそうに笑った。
「ママのインスタ、30万人も見てるんだよね?」
「うん、そうだよ」
「すごいよね。クラスのみんなに自慢する」
私は少し不安になった。
「あんまり自慢しなくてもいいよ」
「でも本当のことだし!」
翔太は元気に学校へ向かった。
その日の夕方。
学校から帰ってきた翔太が興奮していた。
「ママ!先生がびっくりしてた!」
「え?」
「ママのインスタの話したら、先生が『30万人!?』って」
私は心臓が止まりそうになった。
「クラスのお友達のママたちも知ってるって!」
「そ、そう…」
翌日、授業参観があった。
私は健太と一緒に教室に向かった。
教室に入ると、数人の保護者が私を見て小声で話していた。
「あの方じゃない?」
「え、本当に?」
授業が始まった。
先生が言った。
「今日は、先週みんなが書いた『僕のママ、私のママ』の作文を発表してもらいます」
何人かの子供が発表した。
そして翔太の番。
「僕のママは料理が上手です。
毎日おいしいご飯とお弁当を作ってくれます。
ママはインスタグラムで料理の写真を載せています。
30万人の人がママの料理を見ています。
ママはレシピの本も出しました。
パパは『ママは家にいるだけ』って言うけど、
ママは僕たちのご飯を作りながら、たくさんの人を助けています。
僕はママを尊敬しています」
教室がざわついた。
保護者たちが私を見る。
健太は隣で固まっていた。
発表が終わると、休憩時間。
一人の保護者が私に近づいてきた。
「あの…もしかして『○○クッキング』のアカウントの方ですか?」
「あ、はい…」
「本当に!?いつも見てます!」
そこから次々と保護者が集まってきた。
「レシピ本、買いました!」
「毎日参考にしてます」
「サインもらえませんか?」
教室は私を囲む保護者でいっぱいになった。
先生も驚いた顔で見ていた。
健太は隅で呆然としていた。
帰りの車の中は沈黙だった。
健太が口を開いた。
【続きは次のページで】


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