「介護の仕事?誰でもできる仕事だよね」
夫の健二がそう言った時、私は皿を洗う手を止めた。
「何、そんな顔してんの?事実じゃん」
私は介護士として10年働いている。特別養護老人ホームで、寝たきりの高齢者の介護をしている。
「私の仕事、馬鹿にしてるの?」
「馬鹿になんてしてないよ。ただ、誰でもできるって言っただけ」
健二は大手メーカーの営業マン。年収は私の倍以上だった。
「オムツ替えとか、食事の介助とか、資格なくてもできるでしょ」
私は、何も言い返せなかった。
数週間後、健二の様子がおかしくなった。
帰りが遅い。スマホを隠す。
そして、ある日。
「離婚してほしい」
健二が、真顔で言った。
「好きな人ができた」
私は、泣かなかった。
「誰?」
「会社の後輩。美咲って言うんだ」
「そう」
「お前と違って、ちゃんとしたOLだし。将来性もあるし」
「ちゃんとしたOL?」
「介護士より、よっぽどマシってこと」
その言葉が、胸に突き刺さった。
離婚調停は、あっさりと終わった。
慰謝料も、雀の涙程度。
私は、一人になった。
でも、不思議と悲しくなかった。
むしろ、清々した。
それから3年が経った。
私は、今も同じ施設で働いている。
給料は安い。仕事はきつい。
でも、やりがいはある。
利用者の方々の笑顔が、何よりの報酬だった。
ある日、職場の同僚が言った。
「ねえ、元旦那さんって、健二さんだよね?」
「うん、そうだけど」
「なんか大変らしいよ。お義母さんが倒れて」
私は、少し驚いた。
元義母は、健康そのものだった。
「脳梗塞で、半身麻痺だって」
「そうなんだ…」
「しかも、新しい奥さんが介護を拒否してるらしくて」
同僚が、スマホを見せてくれた。
SNSに、健二の投稿があった。
『介護、想像以上に大変。誰か助けて』
私は、複雑な気持ちだった。
数日後、健二から連絡があった。
「久しぶり。元気してた?」
「何の用?」
「実は…相談があって」
健二の声は、疲れ切っていた。
「母さんが倒れて、要介護になったんだ」
「聞いたわ」
「それで…お願いがあるんだけど」
私は、黙って聞いていた。
「母さんの介護、手伝ってくれないか」
「は?」
【続きは次のページで】



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