「美咲が、介護を嫌がって。俺も仕事があるし」
「お前、プロだろ?だから頼みたくて」
私は、信じられなかった。
「断るわ」
「頼むよ。昔の思い出もあるだろ」
「ないわよ。あなたが私を『底辺職』って馬鹿にした思い出しかない」
「あれは…言い過ぎた。ごめん」
「今更遅いわ」
電話を切った。
でも、健二からの連絡は止まらなかった。
メール、LINE、電話。
『頼む。金は払う』
『母さんが可哀想なんだ』
『お前しか頼れる人がいない』
私は、全て無視した。
ある日、健二が職場に現れた。
「話を聞いてくれ」
やつれた顔。目の下には、深いクマ。
「お願いだ。母さんを助けてくれ」
「私には関係ないわ」
「関係ある!お前、介護士だろ!」
「だから何?」
「介護のプロなんだから、助けるのが当然だろ!」
私は、深呼吸をした。
そして、静かに言った。
「あなた、3年前に何て言った?」
健二が、黙り込んだ。
「『介護の仕事?誰でもできる仕事だよね』」
「それ、覚えてる?」
「あ…あれは…」
「誰でもできるなら、あなたがやればいいじゃない」
健二が、顔を歪めた。
「俺には無理なんだ…」
「どうして?誰でもできるんでしょ?」
「オムツ替えも、食事介助も、資格なくてもできるって言ったわよね」
健二が、膝から崩れ落ちた。
「ごめん…本当にごめん…」
「俺が間違ってた…」
「介護は…こんなに大変だとは思わなかった…」
健二が、泣き始めた。
「母さんのオムツを替える時、吐きそうになる」
「夜中に何度も起こされて、眠れない」
「美咲は『無理』って言って、実家に帰っちゃった」
「俺、もう限界なんだ…」
私は、冷たく言った。
「それが、介護よ」
「私は、それを10年間やってきたの」
「あなたに馬鹿にされながらね」
健二が、顔を上げた。
「頼む…戻ってきてくれ…」
「もう一度やり直そう…」
「俺が悪かった…お前のことを見下して…」
「今なら、お前の仕事がどれだけ大変か、わかるから…」
私は、首を横に振った。
「遅いわ」
「あなたは、私が必要な時には何もしてくれなかった」
「でも、自分が困った時だけ助けてほしいって言う」
「そんな都合のいい話、ないわよ」
すると、健二が、必死になって言ってきた。
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