「奢ったんだから感謝しろよ」
デートの帰り道、彼氏が突然そう言った。 私は驚いて彼を見た。
「え?ちゃんとありがとうって言ったよ?」 「言ったけどさ、もっと感謝の気持ちを持てよ。今日だけで8,000円も使ったんだぞ」
付き合って3ヶ月。最初の頃は優しく奢ってくれていた彼が、最近変わってきた。
翌週のデート後も同じことが起きた。 「今日は13,600円も使った。ちゃんと分かってる?」 彼はスマホの画面を見せてきた。 そこには今日のデート代が細かく記録されていた。
「ランチ 3,500円」 「映画代 3,600円(2人分)」 「カフェ 1,800円」 「ディナー 6,500円」
「こんなに記録してたの…?」 「当然だろ。お前のためにいくら使ってるか、ちゃんと把握しないと」
それから、彼の態度はどんどんエスカレートしていった。
「今月は合計で45,000円も使ってるんだけど。感謝してる?」 何かお願いすると「これだけ奢ってるのにまだ要求するの?」 喧嘩すると「俺がお前にいくら使ったと思ってるんだ」
ある日、彼が真顔で言った。 「俺が養ってるようなもんだよな。お前、俺に感謝して生きろよ」
私は黙って頷いた。
でも心の中では、もう限界だった。
そんな翌日、私は一日かけて、とある書類を作成した。
次のデートで、彼がいつものように言った。 「今日も15,000円使ったからな。ちゃんと覚えとけよ」
「そうだね。じゃあ私からもお渡しするものがあるんだけど」 私は封筒から書類を取り出した。
【結末】
「これ、何?」 「請求書よ。私があなたのためにしてあげたことの市場価格を計算してみたの」
彼は書類を受け取って読み始めた。
彼の顔が青ざめた。
「ちょ…ちょっと待てよ…」 「待たないよ。あなたが奢った合計金額、3ヶ月で15万円くらいでしょ?」 「まあ…そうだけど…」 「私の提供したサービスは37万5千円。差額は22万5千円ね」
私は電卓を叩いて見せた。
「こんなの…おかしいだろ…」 「おかしい?でもあなたは毎回、奢った金額を記録して私に見せてきたよね?」 「それは…」 「私も同じことしただけよ。市場価格で換算したら、これが適正価格」
彼は言葉を失った。
「特に感情労働の15万円は安い方よ。あなたの愚痴、毎回2時間以上聞いてたから、本当はもっと請求できる」 「愚痴を聞くのは…彼女として当然だろ…」 「じゃあ奢るのも彼氏として当然じゃないの?なんで毎回記録して恩着せがましく言うの?」
彼は黙り込んだ。
「デートは楽しいから一緒に行くものでしょ?なんで『お前のために使ってやった』みたいな言い方するの?」 「それは…」 「お金でしか関係を測れないなら、私も同じようにビジネスライクに対応するだけよ」
私は請求書をテーブルに置いた。
「22万5千円、払ってもらえる?それとも今後は完全割り勘にする?」 「割り勘で…いい…」
彼は小さな声で答えた。
「分かった。じゃあ今後は全部割り勘ね。そして奢ったことを恩着せがましく言うのも禁止」 「…分かった」 「あと、この請求書の22万5千円は請求しないであげる。代わりに二度と『俺が養ってる』とか言わないでね」
彼は深く頭を下げた。 「ごめん…調子に乗ってた…」
それから1週間、彼は静かだった。 そして次のデートで、彼が言った。
「今日は割り勘で。お会計、半分ずつにしよう」 「うん、ありがとう」
支払いを済ませた後、彼がぽつりと言った。 「お前が俺にしてくれてたこと…当たり前だと思ってた…」 「うん」 「料理も、掃除も、話聞いてくれるのも…全部、感謝すべきことだったんだな…」
私は微笑んだ。 「お互い様なんだよ。奢るのも、料理するのも、相手のためにしてあげたいからするんでしょ?」 「そうだな…」 「それを恩着せがましく言った瞬間、ただの取引になっちゃうの」
彼は大きく頷いた。
それから、彼は変わった。 奢ってくれる時も「今日は俺が出すよ」と自然に言うようになった。 記録も見せなくなった。
私が料理を作った時も「ありがとう」と素直に言ってくれる。 愚痴を聞いた後も「いつも聞いてくれてありがとう」と感謝してくれる。
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