「俺の元カノはこんなことしなかったけどな」
彼氏が私の作ったパスタを一口食べて、ため息混じりに言った。 私はフォークを置いて、彼を見つめた。
「どういう意味?」 「いや、元カノはもっと本格的なパスタ作ってくれたんだよね。これ、ちょっと麺が固いかな」 「じゃあ食べなくていいよ」 「怒るなよ。ただの感想じゃん」
それが始まりだった。
次のデートで映画を見た時も言われた。 「元カノはこういうアクション映画好きだったなぁ。お前はすぐ恋愛映画見たがるよな」 「私が恋愛映画好きなの知ってたでしょ?」 「まあね。でも男からしたらアクションの方が楽しいんだけど」
ショッピングに行けば「元カノはもっと服のセンス良かった」 レストランに行けば「元カノはもっと気が利いて注文してた」 デートプランを提案すれば「元カノはもっと面白い場所知ってた」
2週間で10回以上、元カノの話を聞かされた。
「ねえ、なんでそんなに元カノの話するの?」ある日私は聞いた。 「別に?思い出したから言っただけじゃん」 「でも毎回比較されてるみたいで嫌なんだけど」 「比較?してないよ。ただ元カノはこうだったって事実を言ってるだけ」 「それが比較でしょ」 「お前、被害妄想強いよな。元カノはもっと大人だったけど」
私は深呼吸した。 もう限界だった。
でも、私はまだ我慢していた。 彼に気づいてほしかった。 自分がどれだけ酷いことを言っているのか。
だから私は、ある”作戦”を決行することにした——
翌日のデート当日…
【続き】
翌日のデートで、彼が待ち合わせに5分遅れた。 「ごめん、電車が…」 「私の元カレは絶対に遅刻しなかったけどな」
彼が驚いた顔をした。 「え?」 「時間厳守の人だったから。あなたみたいに言い訳もしなかったし」
ランチを食べながら、私は続けた。 「このハンバーグ美味しいね。でも元カレが連れてってくれたレストランの方がもっと美味しかったかも」 「ちょっと待てよ…」 「何?ただの感想じゃん」
彼の顔が曇った。
映画を見た後も言った。 「元カレはこういう映画の解説がすごく上手だったなぁ。面白い視点で語ってくれて」 「俺だって解説したじゃん」 「うん、でも元カレの方が深かったかな」
帰り道、彼が黙り込んだ。 私は気づかないふりをして、さらに続けた。
「あ、この公園!元カレとよく来たなぁ。懐かしい」 「…ねえ」 「ん?」 「さっきから元カレ元カレって…何なの?」
私は立ち止まって、彼を見つめた。 「何って、思い出したから言っただけじゃん。あなたもいつも元カノの話してるでしょ?」
「それは…」 「それは?比較してないって言うの?」 「…してたかも」
彼は小さな声で認めた。
「元カレは年収も高かったし、イケメンだったし、優しかったなぁ」私は続けた。 「やめてくれよ…」 「でも事実を言ってるだけだよ?元カレはもっと大人だったし」 「分かった!分かったから!」
彼が声を荒げた。
「俺が悪かった…元カノの話、もうしない…」 「本当に?」 「本当。お前と比較するのも絶対しない」 「なんで?」
私は冷静に聞いた。
「だって…めちゃくちゃ嫌な気分になった…お前が元カレの話するの聞いて…」 「そう。私もずっとそう感じてたの」
彼は俯いた。
「ごめん…気づかなくて…」 「元カノがどんなに良い人だったとしても、今付き合ってるのは私でしょ?」 「そうだよ…」 「比較されるの、すごく辛いんだよ」 「本当にごめん…」
彼は心から謝った。
「ちなみに元カレの話、8割嘘だから」私は微笑んだ。 「え?」 「年収が高いとか、イケメンとか。ただの仕返しよ」 「マジで…?」
彼は呆然とした。
「でも元カレが優しかったのは本当。少なくとも、元カノの話で私を傷つけたりしなかった」 「…もう二度と言わない。約束する」
それから1ヶ月、彼は一度も元カノの話をしなくなった。 むしろ私のことを褒めてくれるようになった。
「お前の作る料理、美味しいよ」 「お前のセンス、好きだよ」 「お前といると楽しい」
先日、友達と話していた時、彼が言った。 「俺の彼女が一番可愛いんだよね」
友達が「元カノは?」と聞いた。 「もう過去の話。今の彼女が最高」
私は心の中でガッツポーズをした。 元カレの話(ほぼ創作)で彼を追い込んだ1日間。 それだけで彼は完全に変わった。
比較されることの辛さ、身をもって分かってくれたようだ。
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