「ちょっと、お義母さんがあちこちで『うちの嫁、不妊らしいのよ』って言いふらしてるわよ。大丈夫?」
私は愕然とした。
「言いふらしてるんですか?」
「そうなのよ。昨日も近所の人に言ってたわ。『孫が欲しいのに、嫁が不妊で困ってる』って」
もう限界だった。
私は夫に言った。
「ちゃんと検査受けよう。義母さんを黙らせるために」
「うん、そうだね」
私たち夫婦は不妊専門のクリニックに行った。
まず私が検査を受けた。
結果は「異常なし」。
医師が「妊娠できる身体ですよ。問題ありません」と言ってくれた。
次に夫が検査を受けた。
1週間後、結果が出た。
医師が真剣な顔で言った。
「旦那さん、精子の数と運動率が基準値を大きく下回っています。自然妊娠は難しいかもしれません」
夫の顔が青ざめた。
「え…俺が?」
「はい。奥様は全く問題ありませんが、旦那さんの方に原因があります」
私は複雑な気持ちだった。
夫が原因だとわかって、少し安心した自分がいる。でも同時に、夫を責めるつもりもない。
「大丈夫。これから治療すればいいよ」
「ごめん…俺のせいで…」
「誰のせいでもないよ」
帰りの車で、夫がぽつりと言った。
「母さんに、なんて言おう…」
「事実を言えばいいよ」
「でも母さん、ショック受けるだろうな」
「私が散々『不妊』って言われたこともショックだったけどね」
夫は黙った。
翌週、義実家を訪れた。
義母が「あら、いらっしゃい。で、病院行ったの?やっぱり不妊だった?」と開口一番聞いてきた。
私は冷静に答えた。
「検査結果、出ました」
「ほら、やっぱりね。で、どこが悪かったの?卵巣?子宮?」
「私は異常ありませんでした」
義母が固まった。
「え?じゃあなんで妊娠しないの?」
「不妊の原因は、息子さんです」
診断書を義母の前に置いた。
義母は診断書を見て、顔が真っ青になった。
「そんな…息子に限って…」
「医師の診断です。息子さんの精子に問題があるそうです」
「嘘よ!こんな検査、間違ってるわ!息子は健康なのよ!」
夫が言った。
「母さん、これが事実だよ。俺が悪かったんだ」
「そんなはずない!絶対に検査が間違ってる!」
義母はパニックになっていた。
私は続けた。
「義母さん、親戚中に『嫁が不妊』って言いふらしたそうですね」
「それは…その…」
「事実は逆でした。息子さんが不妊だったんです」
義母は何も言えなくなった。
「今から親戚全員に、訂正のメールを送ります。『不妊の原因は義母の息子です。義母は嘘をついて私を傷つけました』って」
「ちょっと待って!それは…」
「待ちません。義母さんは私を親戚中に『不妊』だと言いふらしました。だから私も事実を言います」
「お願い、それだけはやめて…息子が可哀想…」
「私も可哀想でしたけど、義母さんは気にしませんでしたよね」
私は用意していたメールを、親戚全員に送信した。
診断書の写真も添付した。
義母は崩れるように座り込んだ。
「やめて…息子が恥をかく…」
「私が恥をかいた時は、義母さんは喜んでましたよね」
夫が「もういい、帰ろう」と言った。
私たちは義実家を出た。
車の中で夫が言った。
「やりすぎじゃなかった?」
「やりすぎ?私は2年間、あなたのお母さんに『不妊』呼ばわりされて、親戚中に言いふらされたんだよ。これくらい当然でしょ」
夫は何も言えなかった。
数日後、親戚から次々と連絡が来た。
「お義母さん、ひどいことしたのね」「あなたは何も悪くなかったのに」「お義母さんに騙されてたわ」
義母は親戚中から非難され、完全に孤立した。
義母から謝罪の電話があった。
「ごめんなさい…許して…」
「許しません。あなたは私を『不妊』だと決めつけて、親戚中に言いふらしました。私がどれだけ傷ついたか、わかりますか?」
「わかるわ…本当にごめんなさい…」
「わかるなら、最初からあんなこと言わないでください。もう二度と連絡してこないでください」
電話を切った。
それから半年後、私たちは不妊治療を始めた。
夫も前向きに治療に取り組んでくれている。
「俺のせいでごめん」って何度も言うから、「誰のせいでもないよ」って何度も言った。
義母とは完全に絶縁した。
義母は今でも親戚から「息子が不妊なのに、嫁のせいにして恥ずかしい」と言われ続けているらしい。
自業自得だ。
人を決めつけて、根拠もなく傷つける人には、ちゃんと報いがある。


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