ある日、私は自分の財布からお金がなくなっていることに気づいた。
昨日まで3万円入っていたのに、5千円しかない。
「ねえ、私の財布からお金取った?」
健太に聞くと、彼は平然と言った。
「ああ、借りたよ。ちょっと飲みに行く金が必要だったから」
「借りた?勝手に取ったんでしょ!返して!」
「うるせえな。そのうち返すよ」
健太は悪びれもしない。
私は夫に「お兄さんが私の財布からお金を盗んだ」と訴えた。
でも夫は「盗んだって…兄貴は借りたって言ってるし」と義兄の味方。
「借りるなら許可を取るでしょ!これは窃盗よ!」
「大げさだな。家族なんだから」
私はもう限界だった。
「わかったわ。警察呼ぶから」
「は?警察?」
夫は驚いた顔をした。
「泥棒は警察に通報するのが普通でしょ」
「ちょっと待て、兄貴は家族だぞ!」
「家族でも窃盗は犯罪です」
私は本気だった。
私が携帯を取り出して110番に電話しようとすると、健太の顔色が変わった。
「おい、マジでやめろよ!」
「やめません」
「ヤベえ!」
健太が突然、玄関に向かって走り出した。
「待ちなさい!」
私が追いかけると、健太は玄関のカギ置き場から私の車の鍵を掴んだ。
「その鍵、返して!」
「悪いな!」
健太は外に飛び出し、私の車に乗り込んだ。
エンジンがかかる音。
「私の車!」
健太は車で逃げ去った。
私は急いで110番に電話した。
「窃盗犯が逃走しました!私の車を盗んで!」
警察官が状況を聞き、「すぐにパトカーを向かわせます」と言った。
数分後、サイレンの音が聞こえた。
夫と私は外に出た。
「兄貴、何やってるんだ…」
夫も青ざめている。
警察から連絡があった。
「犯人を追跡中です。ナンバーと車種を教えてください」
私が伝えると、警察は「了解しました」と電話を切った。
30分後、また警察から電話。
「犯人を確保しました」
「本当ですか!?」
「はい。犯人は運転ミスで電柱に衝突し、現場で逮捕しました」
私と夫は警察署に向かった。
警察署では、健太がうなだれて座っていた。
顔には擦り傷があり、服も汚れている。
警察官が説明してくれた。
「犯人はパトカーに気づいて逃走を試みましたが、運転ミスで電柱に衝突しました」
「怪我は?」
「軽傷です。それより問題なのは…」
警察官は続けた。
「犯人は無免許でした。さらに、あなたの車を盗んだことで車両窃盗罪も追加されます」
私は頷いた。
「被害届を出します」
健太が「おい!マジかよ!」と叫んだ。
警察官が健太を制止した。
そして警察官が続けた。
「それと、もう一つ」
「何ですか?」
「実は、この男は別の場所で事件を起こしていました」
「え?」
警察官が資料を見せた。
「半年前、前に住んでいた町で、コンビニ強盗未遂事件を起こしています。指名手配中でした」
私と夫は絶句した。
「強盗!?」
「はい。コンビニで店員を脅してお金を奪おうとしましたが、失敗して逃走。それ以来、行方不明でした」
健太が「ちげえよ!あれは…」と言い訳しようとしたが、警察官は無視した。
「さらに、窃盗の余罪も複数あります。前の町で、知人の家から金品を盗んでいたことも判明しました」
夫が「兄貴…お前…」と言葉を失った。
健太は俯いて何も言わなかった。
警察官が私に言った。
「おそらく、彼は前の町から逃げてきて、弟さんの家に隠れていたんでしょう」
私は全てを理解した。
健太が突然「泊めてくれ」と来たのは、事件から逃げるためだったのだ。
夫が健太に「お前、俺を利用したのか?」と詰め寄った。
健太は何も答えなかった。
警察官が続けた。
「窃盗、無免許運転、車両窃盗、そしてコンビニ強盗未遂。さらに窃盗の余罪。これは実刑になります」
健太の顔が真っ青になった。
「実刑…」
「はい。執行猶予はつかないでしょう」
数ヶ月後、裁判があった。
健太は懲役2年の実刑判決を受けた。
義母は「息子を刑務所に送った」と私を責めたが、私は「犯罪者を庇うことはできません」と突っぱねた。
義父は「息子が悪い」と私の味方をしてくれた。
夫は「兄貴を信じてた俺が馬鹿だった。お前を守れなくて、本当にごめん」と何度も謝った。
「これからは私を一番に考えて」
「わかった。絶対に」
それから、我が家には平穏が戻った。
健太は刑務所で服役中。
出所後も、二度と我が家には近づかないと誓わされた。
あの時、警察を呼んで本当に良かった。
もし我慢していたら、私たちは犯罪者を匿っていたことになっていた。
因果応報。
犯罪を犯して逃げた人間は、必ず捕まる。
そして、家族だからといって犯罪を見逃してはいけない。
私は自分の判断を、誇りに思っている。


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