「俺…お姉さんの方が好きなんだ」
私は耳を疑った。
「は?何言ってるの?」
「ごめん。お姉さんと会ってるうちに、惹かれてしまって」
「ちょっと待って。姉と?私の姉と?」
「ごめん。本当にごめん」
彼は一方的に婚約を破棄した。
私は信じられなくて、姉に電話した。
「お姉ちゃん、彼から聞いたんだけど…」
「ああ、ごめんね。でも恋愛に年齢は関係ないでしょ?」
姉は悪びれる様子もなかった。
「何言ってるの!?私の婚約者だよ!?」
「元婚約者でしょ?もう破棄したんだから」
「お姉ちゃんが誘惑したんでしょ!?」
「誘惑?彼が私を選んだだけよ。妹より私の方が魅力的だったってこと」
姉は笑っていた。
私は怒りと悲しみで、何も言えなくなった。
両親に相談したが、母は困った顔をした。
「お姉ちゃんも、もう30歳だし…相手が見つかって良かったじゃない」
「良かった?私の婚約者を奪ったんだよ!?」
「でも、彼が選んだんだから仕方ないでしょ」
父も何も言わなかった。
私は絶望した。
家族の誰も、私の味方をしてくれなかった。
半年後、姉と元婚約者は結婚した。
私は式には呼ばれなかった。
「妹ちゃんは複雑だろうから、気を使って呼ばなかったの」
姉はそう言ったらしい。
私は実家とも距離を置いた。
それから5年が経った。
私は別の男性と出会い、結婚して、子供も生まれた。
姉のことは、もう過去のことだと思っていた。
そんなある日、姉から久しぶりに電話があった。
「久しぶり。ちょっと相談があるんだけど…」
姉の声は暗かった。
「何?」
「実は…彼が浮気してるの」
私は何も言わなかった。
「職場の若い女と。証拠も見つけちゃって」
姉は泣き始めた。
「あなた、裏切られた気持ちわかる?本当に辛いのよ」
その言葉を聞いた瞬間、私の中で何かが冷めた。
「お姉ちゃん、私の婚約者を奪った時、どう思いました?」
姉は黙った。
「あの時、私がどれだけ傷ついたか、考えたことあります?」
「あれは…あの時は恋愛だったから…」
「恋愛?私の婚約者を誘惑して奪っておいて?」
姉は何も言えなくなった。
「今、お姉ちゃんが言った『裏切られた気持ちわかる?』って、まさに私があの時感じたことです」
「でも…」
「因果応報です。お姉ちゃんが人の婚約者を奪った報いが、今来ただけ」
姉が泣きながら言った。
「ひどい…妹なのに助けてくれないの?」
「妹?お姉ちゃん、私の婚約者を奪った時、妹だって思ってました?」
姉は何も答えなかった。
「助けません。自分で何とかしてください」
私は電話を切った。
数週間後、両親から連絡があった。
「お姉ちゃんが離婚して実家に戻ってきた。あなた、冷たいこと言ったんだって?」
「冷たい?」
「姉妹なんだから、助け合いなさい」
私は深呼吸した。
「お母さん、5年前、お姉ちゃんが私の婚約者を奪った時、何て言いました?」
母は黙った。
「『お姉ちゃんも30歳だし、相手が見つかって良かった』って言いましたよね」
「それは…」
「今、お姉ちゃんは独身に戻ったんだから、また相手を探せばいいじゃないですか。私は関係ありません」
「あなた、姉が苦しんでるのよ!」
「私も5年前、苦しんでました。でも誰も助けてくれませんでしたよね」
私は電話を切った。
その後、姉は実家でしばらく暮らしていたらしい。
でも両親も、最終的には姉に厳しくなった。
「お前が妹の婚約者を奪ったから、こうなったんだろ」
父がそう言ったと、後で母から聞いた。
姉は実家にもいづらくなり、一人暮らしを始めたらしい。
それから2年。
姉から最後のLINEが来た。
「あの時は本当にごめん。私が間違ってた。許してとは言わない。でも、謝りたかった」
私は既読だけつけて、返信しなかった。
許す気はない。
あの時の傷は、今も消えていない。
姉は自分の欲望のために、私の幸せを奪った。
そして今、自分が同じ目に遭った。
因果応報。
人の幸せを奪った人間は、自分の幸せも奪われる。
私は今、夫と子供と幸せに暮らしている。
元婚約者は、姉との離婚後、転職して地方に行ったらしい。
二人とも、もう私の人生には関係ない。
「やっぱりお姉さんの方が好きだ」
あの言葉は、今も時々思い出す。
でも、あの人と結婚しなくて良かった。
本当に大切な人は、私を裏切らない。
今の夫がそれを教えてくれた。
姉は、自分で自分の人生を壊した。
私はもう、姉のことを気にかけることはない。



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