でも、私を待っていたのは雑用係のポジションだった。
「あなた、ブランクあるでしょ?まずは簡単な仕事から慣れていって」
田中さんがそう言って、私にコピー取りやお茶出しを命じた。
営業として復帰するはずだったのに。
私は限界だった。
労働局に相談し、弁護士を雇った。
「これは明らかなマタニティハラスメントです。訴えましょう」
弁護士は私の記録したメールや録音を見て、即座にそう言った。
私は会社に対して、マタハラとして正式に訴えを起こした。
すると、驚くべきことが起きた。
他の女性社員が次々と「私も田中さんに同じことをされました」と名乗り出たのだ。
5年前に産休を取った先輩も、3年前に育休から復帰した同僚も、みんな田中さんから嫌がらせを受けていた。
「復帰後、倉庫整理に回されました」
「産休中も仕事の連絡が来て、断ったら『冷たい』と言われました」
「送別会で『子供作るのは勝手だけど、会社に迷惑かけないで』と言われました」
証言が続々と集まった。
田中さんは複数の女性社員に対して、常習的にマタハラを行っていたのだ。
会社は徹底調査を開始した。
そして1ヶ月後、田中さんは営業部長から降格され、一般社員になった。
私は元の営業職に復帰し、さらに田中さんの後任として営業課長に昇進した。
会社からは正式な謝罪と、慰謝料も支払われた。
それから半年が経った。
ある日、田中さんが私のデスクにやってきた。
「あの…課長、ちょっとご相談が」
田中さんは緊張した面持ちで立っている。
「何ですか?」
「実は…妊娠しました」
「おめでとうございます」
私が言うと、田中さんは複雑な表情をした。
「それで…産休を取りたいんですが…」
「もちろんです。権利ですから」
私が言うと、田中さんは少しホッとした様子だった。
でも、数日後。
田中さんの直属の上司である営業部長が、田中さんを呼び出した。
私も同席することになった。
営業部長は資料を広げた。
「田中さん、妊娠おめでとう」
田中さんが「ありがとうございます」と答えると、営業部長は続けた。
「ところで、過去の記録を確認したんだけど、あなたは部下の妊娠報告に対して『迷惑なタイミングね』『楽でいいわね』と言ってたよね」
田中さんの顔が凍りついた。
「それって、マタニティハラスメントだよね。自分が妊娠して、同じことを言われたらどう思う?」
営業部長の言葉に、田中さんは何も言えなくなった。
「産休育休は認めます。ただし、復帰後のポジションは現状維持。昇進はありません」
つまり、一般社員のまま。
田中さんは震えながら部屋を出ていった。
その後、私が廊下で田中さんとすれ違った。
田中さんは涙目で立ち止まった。
「結衣さん…私…」
私は冷静に言った。
「そうですね。マタハラって本当に辛いですよね。私もそう思ってました」
田中さんは何も言い返せず、うつむいた。
数ヶ月後、田中さんは産休に入った。
でも産休中、会社からの連絡は一切なかった。完全に忘れられた存在になっていた。
かつて田中さんが私にしたことと、全く同じ。
1年後、田中さんは育休から復帰した。
でも待っていたのは、雑用係のポジション。コピー取りとお茶出し。
かつて田中さんが私を配置した、あの場所。
周囲の社員も、田中さんを避けるようになっていた。
「あの人、マタハラで降格された人でしょ」
ヒソヒソと囁く声が聞こえる。
田中さんは耐えきれず、半年で退職した。
一方、私は営業課長として活躍し、翌年には営業部長に昇進した。
後輩の女性社員が妊娠を報告してきた時、私は笑顔で言った。
「おめでとう!安心して産休育休取ってね。戻ってきたらまた一緒に頑張ろう」
彼女は涙を浮かべて「ありがとうございます」と言ってくれた。
人にしたことは、必ず自分に返ってくる。
田中さんには、良い勉強になったはずだ。



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