「母さんがああ言ってるから」
それが夫の口癖だった。
子供の名前も、義母が決めた。
家の購入も、義母の意見で決まった。
私の仕事も、義母の「嫁は家にいるべき」で辞めさせられた。
私「私の意見は?」
夫「母さんの方が人生経験あるから」
義母は毎日のように電話してきた。
義母「今日の夕飯は何?」
「○○くんの好物作ってあげなさい」
「掃除はちゃんとした?」
私は義母の指示通りに動く人形だった。
私「お義母さん、少し距離を…」
義母「あら、姑を邪魔者扱いするの?」
夫「母さんを悲しませるなよ。親不孝だぞ」
ある日、私が体調を崩して寝込んだ。
「夕飯は?」夫が聞いた。
私「ごめん、今日は作れない…」
夫「は?俺、腹減ってるんだけど」
夫は義母に電話した。
「母さん、嫁が飯作らないんだけど」
すぐ義母が駆けつけてきて、とんでもない事を言い出した…。
しかし、まさかの人物が現れ、状況が一変…!
【結末】
「体調不良?」
義母が寝室のドアを開けて入ってきた。
「甘えてるだけでしょう」
私は布団の中で体を丸めた。
頭痛と吐き気で、起き上がることもできない。
「お義母さん、本当に体調が悪くて…」
「私なんて、熱があっても家事してたわよ。最近の若い子は根性がないのね」
義母が腕組みをして、私を見下ろした。
「○○くん、可哀想に。こんな嫁じゃお腹空かせちゃって」
夫は何も言わなかった。
ただ、困ったような顔で立っているだけ。
「私が作ってあげるから、○○くん。母さんの料理、久しぶりでしょう」
義母が嬉しそうに言った。
「ありがとう、母さん」
夫が笑顔で答えた。
私の具合を心配する言葉は、一言もなかった。
「こんな嫁じゃ、○○くんが可哀想よね」
義母が夫に囁いた。
その声は、私にもはっきり聞こえた。
涙が溢れた。
もう、限界だった。
その時、インターホンが鳴った。
「はーい」
義母が出た。
「あ、○○さんのお友達?ちょっと今、○○さん寝込んでて…」
「聞いてます!だから来たんです!」
聞き覚えのある声がした。
美咲ちゃんだ。
保育園のママ友で、いつも相談に乗ってくれる。
「入れてください」
「え、でも…」
義母が戸惑っている間に、玄関のドアが開く音がした。
「失礼しまーす!」
美咲ちゃんの声と共に、複数の足音が聞こえた。
「え、ちょっと…」
義母の慌てる声。
寝室のドアが開いた。
美咲ちゃん、恵美ちゃん、由紀子さん。
ママ友グループの3人が、一斉に入ってきた。
「○○ちゃん!大丈夫!?」
美咲ちゃんが私の枕元に来た。
「LINE見て心配で…みんなで来ちゃった」
そうだ。今朝、もう限界だと思って、グループLINEに弱音を吐いたんだ。
「お義母さん、ひどすぎませんか?」
恵美ちゃんが義母を見た。
「『甘えてるだけ』って、体調悪い人に何言ってるんですか」
「あなたたち、誰の許可で…」
義母が顔を赤くした。
「旦那さんも、旦那さんですよ」
由紀子さんが夫を見た。
「奥さんが倒れてるのに『飯は?』って。信じられない」
「それは…」
夫が言葉に詰まった。
「うちの夫は、私が風邪の時は一週間家事全部やってくれましたよ。それが普通です」
美咲ちゃんが夫に言った。
「○○ちゃんの旦那さん、奥さん守る気ないんですか?」
「お義母さんの毎日の電話、ご近所で有名ですよ」
恵美ちゃんが言った。
「『嫁を監視してる』って、みんな知ってます」
義母の顔が真っ赤になった。
「そんな…」
「○○ちゃんが仕事辞めさせられたこと、労働局に相談した方がいいって、弁護士の友達が言ってました」
由紀子さんが続けた。
「本人の意思に反して退職を強要するのは、パワハラですから」
「私は…息子のためを思って…」
義母が震える声で言った。
「息子のため?」
美咲ちゃんが首を傾げた。
「息子さんの奥さんを壊すことが、息子さんのためなんですか?」
「○○ちゃん、見てくださいよ。痩せちゃって、顔色も悪い」
恵美ちゃんが私の手を握った。
「これ、普通じゃないですよ。ストレスで体壊してるんです」
「お義母さん、息子さんが大事なら、息子さんの家庭を守るべきでしょう」
由紀子さんが静かに、でもはっきりと言った。
「このままだと、○○ちゃん、本気で離婚考えてますよ」
夫の顔が青ざめた。
「え…」
「当たり前でしょう」
美咲ちゃんが夫を見た。
「妻の意見は無視、義母の言いなり、体調悪い妻より自分の空腹優先。こんな結婚生活、誰が続けたいと思います?」
「○○ちゃん、私たち、いつでも味方だから」
恵美ちゃんが私に囁いた。
「実家に帰るのも、弁護士に相談するのも、全部サポートするから」
「そんな…」
夫が呟いた。
「離婚なんて…」
「じゃあ、今変わらないと手遅れですよ」
由紀子さんが真剣な顔で言った。
「奥さんは、もう限界なんです。これ以上我慢させたら、本当に終わりますよ」
「私は…もう、知らない!」
義母が叫んだ。
「せっかく来てあげたのに、こんな扱い受けるなんて!」
義母は荷物をつかんで、リビングに出て行った。
玄関のドアが、バタンと閉まる音がした。
沈黙が流れた。
夫が、呆然と立っていた。
「旦那さん」
美咲ちゃんが言った。
「今、何が大事か、よく考えた方がいいですよ」
「お母さんですか?それとも、奥さんとお子さんですか?」
夫は何も答えられなかった。
「私たち、帰るね。○○ちゃん、また明日様子見に来るから」
恵美ちゃんが私の頭を撫でた。
「何かあったら、すぐ連絡して。いつでも飛んでくるから」
3人が帰っていった。
寝室には、私と夫だけが残された。
夫は、しばらく立ち尽くしていた。
それから、ゆっくりと私の方に歩いてきた。
正座して、座った。
「…ごめん」
小さな声だった。
「俺、何も見えてなかった」
夫が床に手をついた。
土下座だった。
「友達の言う通りだ。俺、お前を全然守ってなかった」
夫の声が震えていた。
「母さんの言いなりで、お前の意見、一度も聞かなかった」
「お前が辛いって言っても、無視して…」
夫が顔を上げた。
目が真っ赤だった。
「離婚…されたくない」
「お前と、子供と…家族でいたい」
私は夫を見た。
「じゃあ、変わって」
私は言った。
「お義母さんじゃなくて、私の意見を聞いて」
「私が辛いって言ったら、信じて」
「私を、守って」
夫は大きく頷いた。
「わかった。絶対に変わる」
「母さんには、明日電話する。もう口出ししないでくれって」
「お前の仕事のことも…戻れるなら、戻ってほしい」
「俺が間違ってた」
夫は深く、深く頭を下げた。
「もう一度だけ…チャンスをくれないか」
私は天井を見た。
信じていいのか、わからなかった。
でも、今日初めて、夫が「母さんより、お前」と言ってくれた。
それは、小さな希望だった。
「…様子を見る」
私は言った。
「本当に変われるか、見させて」
「ありがとう」
夫は涙を流しながら、何度も頭を下げた。
翌日。
夫は本当に、義母に電話した。
私の隣で、スピーカーにして。
「母さん、今まで色々相談してきたけど、これからは俺たち夫婦で決めていく」
「毎日の電話も、控えてほしい」
「妻を疲れさせてしまった。それは俺の責任だ」
義母は怒鳴っていた。
でも、夫は引かなかった。
「母さんの気持ちはわかる。でも、俺の家族は妻と子供だ。そっちを優先させてほしい」
電話は、一方的に切られた。
夫は深くため息をついた。
「これで、良かった…よな?」
夫が不安そうに私を見た。
私は、少しだけ笑った。
「うん」
それから数日後。
美咲ちゃんたちがまた来てくれた。
「旦那さん、変わった?」
「少しずつ、だけど」
私は答えた。
「昨日、私が疲れてるって言ったら、夕飯作ってくれたの」
「おお!進歩じゃん!」
美咲ちゃんが手を叩いた。
「まだ完璧じゃないけど、前よりはずっといい」
「良かった」
恵美ちゃんが微笑んだ。
「でも無理しないでね。また辛くなったら、すぐ言って」
「うん。ありがとう、みんな」
私は心から感謝した。
友達がいなければ、私はもう壊れていたかもしれない。
夫も、変わろうとはしなかったかもしれない。
まだ完璧じゃない。
義母との関係も、まだギクシャクしている。
でも、夫が私の味方になってくれた。
それが、何よりも大きかった。
子供が保育園から帰ってきた。
「ママ、元気になった?」
「うん、元気になったよ」
私は子供を抱きしめた。
「もう大丈夫だから」
夫が仕事から帰ってきた。
「ただいま。今日の夕飯、俺が作るよ」
「本当?」
「ああ。お前、まだ本調子じゃないだろ」
夫が笑った。
不器用だけど、優しい笑顔だった。
私たちの家族は、少しずつ、本当の家族になっていく。
そんな気がした。
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