「俺の金で買ったものなんだから、俺のものだろ」 夫が言った。私が買ったばかりのコートを勝手に義母にあげた時。
「え、それ私のコートなんだけど…」
「俺が稼いだ金で買ったんだから、俺が誰にあげようが自由だろ」
「でも私が選んで…」 「専業主婦のくせに権利主張すんな」
私は呆然とした。
それから、夫は私の物を勝手に処分し始めた。
私の本→「邪魔だから捨てた」
私の化粧品→「高いから売った」
私の服→「ダサいから捨てた」
「返して…」 「俺の金で買ったものは俺のもの。嫌なら自分で稼げ」
義母も「そうよ。養ってもらってるんだから文句言えないわよ」
私は働き始めた。 パートで月8万円。
「俺の金とお前の金、一緒にするから」 「え?」 「俺が管理してやるよ」
私の給料も、夫が管理した。
「お小遣い、月5000円な」 「え、8万稼いでるのに?」 「家計に入れるんだから当然だろ」
夫は自分の給料から、毎月好きに使っていた。
「これ、不公平じゃ…」
「文句あるなら出て行けよ。お前一人じゃ生きていけないくせに」
すると夫は、さらにとんでもない事を言い出した…。
【続き】
ある日、夫がニヤニヤしながら言った。
「なあ、俺、会社の後輩の結婚式でスピーチ頼まれたんだ」
「へえ、それは良かったね」
私は適当に返事をした。
「で、ご祝儀なんだけど」
「うん」
「10万包むから」
「え…10万?」
私は目を疑った。
「後輩だし、俺は先輩だから多めに包まないと格好つかないだろ」
「でも普通3万とか5万じゃ…」
「俺の金なんだから、俺が決める」
夫は言い切った。
「あと、二次会もあるから、その費用も必要だな。合わせて15万くらいか」
「15万!?」
「うるさいな。俺が稼いだ金だろ。お前には関係ない」
私は黙り込んだ。
そして数日後、夫はさらにとんでもないことを言い出した。
「なあ、母さんの還暦祝い、温泉旅行に行こうと思うんだ」
「…うん」
「家族みんなで。母さん、姉ちゃん夫婦、姪っ子も」
「それは良いけど…」
「で、費用なんだけど、俺が全部出すから」
私の胸に嫌な予感が走った。
「全員分で50万くらいかな」
「50万!?」
「いい旅館取ったんだ。母さん、喜ぶぞ」
「ちょっと待って。そんな大金…」
「俺の金だから、文句言うな」
夫は不機嫌な顔をした。
「てか、お前も来るんだから文句言う資格ないだろ」
「でも家計が…」
「大丈夫だよ。お前のパート代も貯まってるし」
「え?」
私の背筋が凍った。
「私のパート代…貯金してたんじゃ…」
「してたよ。でも、家族のために使うんだから問題ないだろ」
「私が稼いだお金なのに…」
「だから、俺が管理してるって言っただろ。家族のためなんだから、使わせてもらうよ」
夫は当然のように言った。
「それに、母さんの還暦なんだから、ケチケチすんなよ」
義母が横から口を出した。
「そうよ。私の還暦なのよ?孫の嫁なら当然、お金出すべきでしょ」
私は何も言えなかった。
その夜、私は一人で泣いた。
私の給料、8万円×半年分で48万円。
それが、全部使われる。
夫の見栄と、義母の還暦旅行のために。
私には月5000円しか渡されないのに。
「もう、無理…」
私は決意した。
翌朝、私は市役所に行った。
そして、弁護士の無料相談を予約した。
弁護士の先生は、私の話を静かに聞いた。
「それは経済的DVですね」
「え…DV?」
「はい。身体的暴力だけがDVではありません。経済的に支配して、相手の自由を奪うのも立派なDVです」
弁護士が続けた。
「夫婦で稼いだお金は、共有財産です。あなたのパート代も、あなたが管理する権利があります」
「でも、夫が…」
「違法です。明確に」
弁護士はきっぱりと言った。
「それに、あなたが専業主婦だった時も、家事労働の対価として財産を共有する権利があります」
「夫が『俺の金』と言うのは法的に間違っています」
私の目から涙が溢れた。
「私…間違ってなかったんですか…」
「全く間違っていません。むしろ、夫の行為は違法です」
弁護士が資料を渡してくれた。
「離婚を考えていますか?」
「…はい」
「では、証拠を集めましょう。夫の発言、LINEのやり取り、家計簿、通帳のコピー。全て証拠になります」
私は頷いた。
「それと、別居することをお勧めします。経済的DVから逃れるためにも」
「わかりました」
私は決意を固めた。
それから2週間、私は密かに証拠を集めた。
夫の「俺の金だ」という発言を録音。
給料明細と家計簿のコピー。
私のパート代が勝手に使われた記録。
夫が勝手に私の物を処分したメモ。
そして、別居の準備を進めた。
実家に相談し、受け入れてもらえることになった。
ある土曜日の朝。
夫が寝ている間に、私は荷物をまとめた。
リビングのテーブルに、手紙を置いた。
「離婚したいです。弁護士を通して連絡します」
そして、私は家を出た。
実家に戻った。
父と母が、温かく迎えてくれた。
「よく決心したね」
父が言った。
「ゆっくり休みなさい」
母が私を抱きしめてくれた。
その日の夜、夫から電話が殺到した。
無視した。
LINEも無視した。
翌日、弁護士から夫に連絡が入った。
「離婚調停を申し立てます」という通知。
夫は慌てて実家に押しかけてきた。
インターホン越しに、夫の声が聞こえた。
「ちょっと待てよ!何勝手に出て行ってんだ!」
父が対応した。
「娘は離婚の意思を固めています。弁護士を通してください」
「離婚?冗談じゃない!」
「冗談ではありません。娘に対する経済的DVが認められています」
「DV?俺が?」
夫の声が上ずった。
「はい。専門家の判断です」
父の声は冷静だった。
「詳しくは弁護士と話してください」
父はインターホンを切った。
1週間後、調停が始まった。
夫は「離婚する気はない」と主張した。
しかし、調停委員の前で、私が証拠を提示した。
録音された夫の発言。
「俺の金で買ったものは俺のもの」
「専業主婦のくせに権利主張すんな」
「お前一人じゃ生きていけないくせに」
調停委員の顔が厳しくなった。
夫の顔は真っ青だった。
「これは…冗談で…」
「冗談には聞こえませんね」
調停委員が言った。
「それに、奥さんのパート代を勝手に使った記録もありますね」
「それは家計のために…」
「奥さんには月5000円しか渡さず、ご自分は自由に使っていた。これは経済的DVと判断できます」
調停委員が続けた。
「離婚は認められる可能性が高いです」
夫は何も言えなくなった。
2回目の調停。
夫は弁護士を連れてきた。
「慰謝料は払えません」と主張した。
しかし、私の弁護士が反論した。
「経済的DVの証拠は明確です。慰謝料200万円を請求します」
「そんな金額…」
「それに、婚姻期間中の貯金の半分も財産分与として請求します」
私の弁護士が通帳のコピーを提示した。
夫名義の口座に、500万円の貯金があった。
「これの半分、250万円も請求します」
「それは俺が稼いだ金だ!」
夫が叫んだ。
「夫婦の共有財産です。法律で決まっています」
調停委員がきっぱりと言った。
夫の弁護士も、何も言えなかった。
法律は明確だった。
3回目の調停で、夫は折れた。
「離婚に同意します…」
夫の声は小さかった。
「慰謝料150万円、財産分与250万円、合計400万円を支払います」
調停が成立した。
私は晴れて自由になった。
調停が終わった後、夫が私に近づいてきた。
「なあ…やり直せないか…」
「無理です」
私はきっぱりと言った。
「あなたは私を対等なパートナーだと思ってなかった。所有物だと思ってた」
「そんなこと…」
「『俺の金』『俺のもの』って、何度も言いましたよね」
夫は何も言えなかった。
「私も稼ぐ能力があります。あなたがいなくても生きていけます」
私は夫に背を向けた。
「さようなら」
夫の呼ぶ声が聞こえたが、振り返らなかった。
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