説教の日々
「いいか、お前はだから駄目なんだよ!」
また始まった。
今日は皿を1枚割っただけ。 それだけで、夫の長い説教が始まった。
「お前は注意力が足りない」 「前から言ってるよな」 「この前も洗濯物を干し忘れて…」
過去の失敗を全て掘り返す。 1ヶ月前のことも、3ヶ月前のことも。
「もういいでしょ」
私が言うと、夫は目を吊り上げた。
「いや、お前が理解するまで言う」 「理解してます」 「してないだろ。また同じことするだろ」
私が反論しようとすると、
「人の話を最後まで聞け」
最後がない。 延々と続く。
時計を見る。 もう40分経っている。
1時間の説教
結局、皿1枚で1時間の説教。
「お前は社会人としてどうなんだ」 「親からちゃんと教わらなかったのか」
親の批判まで始まる。
「私の親を悪く言わないで」 「事実だろ。お前を見ればわかる」
涙が出そうになる。 でも泣いたら「泣けば済むと思ってるのか」と言われる。
「…ごめんなさい」
「反省してないだろ」 「反省してます」 「顔に出てない。本当に反省してるのか」
どう反省したらいいのか。 わからない。
すると、子供が部屋から出てきた。
しかし夫は…
【続き】
「ママ、大丈夫?」
8歳の娘が、心配そうに私を見ている。
「パパ、やめて」
夫は娘を睨んだ。
「これは教育だ。お前は黙ってろ」 「でも…」 「部屋に戻れ!」
娘は泣きそうな顔で部屋に戻った。
記録を始める
その日から、私は説教の時間を記録し始めた。
【記録】
- 月曜日:皿を割った → 1時間
- 火曜日:洗濯物のたたみ方 → 30分
- 水曜日:冷蔵庫の整理が悪い → 45分
- 木曜日:ゴミの出し方が間違い → 1時間
- 金曜日:夕食の味付けが薄い → 40分
- 土曜日:子供の宿題チェック忘れ → 1時間20分
1週間で累計5時間10分。
しかも、説教中のルール。
- スマホ禁止
- 目を見ろ
- 返事をしろ
- 反論するな
完全に上司と部下。
「俺はお前のために言ってるんだぞ」
ありがた迷惑。
録音開始
私は決意した。
説教の内容を、全て録音することに。
スマホをポケットに入れて、録音ボタンを押す。
次の説教。 買い物の仕方が悪いと言われた。
『お前は計画性がない』 『無駄な買い物が多い』 『家計簿もまともにつけられない』 『親からお金の使い方教わらなかったのか』
全て録音。
その次の説教も。 その次も。
1週間で、5時間分の録音が集まった。
カウンセラーに相談
私は録音データを持って、心理カウンセラーのもとへ行った。
「これを聞いてもらえますか」
カウンセラーは5時間分の録音を、要所要所聞いた。
20分後、カウンセラーは顔をしかめた。
「…これは、精神的支配です」 「やはり」 「モラルハラスメント、精神的DVの傾向があります」
カウンセラーは診断書を書いてくれた。
【診断書】 精神的DVの可能性あり。継続的なモラルハラスメント傾向が認められる。被害者は抑うつ状態に陥るリスクが高い。
「これ、ご主人に見せてもいいですか?」 「もちろんです」
宣言
その夜、私は夫に言った。
「これ以上説教したら、私も1時間、あなたの問題点を指摘します」
夫は鼻で笑った。
「お前が俺に?何を指摘するんだよ」 「たくさんあります」 「例えば?」
「脱いだ靴下をリビングに放置」 「トイレの便座を上げっぱなし」 「歯磨き粉のキャップを閉めない」 「冷蔵庫のドアを開けっぱなし」
「そんな些細なこと…」
「あなたが私に言ってることも、些細なことですよね?」
夫の顔が険しくなる。
「お前、生意気になったな」 「生意気?対等に話してるだけです」
夫の逆ギレ
次の日、私が夕食の準備をしていると、 夫が冷蔵庫を開けて言った。
「なんだこの配置。使いにくいだろ」
また始まった。
「じゃあ私も言わせてもらいます」
私は振り返った。
「あなたは冷蔵庫のドアを、いつも開けっぱなしにしますよね」
夫の顔が真っ赤になった。
「何様のつもりだ!?」 「何様でもありません」 「俺は指導してるんだぞ!お前の指摘とは違う!」 「どう違うんですか?」 「お前が俺に指摘することなんかあるわけないだろ!」 「どうして?」 「立場をわきまえろ!」
立場?
「夫婦に立場なんてないですよね」
「うるさい!黙れ!」
夫が怒鳴る。
子供が怯えている。
録音公開
その瞬間、私はスマホを取り出した。
「じゃあ、これを聞いてもらいましょう」
「何だそれ」
「あなたの説教です」
再生ボタンを押す。
夫の声が、部屋に響く。
『お前は注意力が足りない』 『社会人としてどうなんだ』 『親からちゃんと教わらなかったのか』 『お前は理解してない』 『反省してないだろ』
夫の顔が青ざめる。
「お、お前…録音してたのか!?」 「はい。1週間で5時間分あります」
「勝手に録音するなんて!」 「違法じゃありません。自分の身を守るためです」
私はテーブルに診断書を置いた。
「これ、心理カウンセラーの診断です」
夫が手に取る。
【精神的DVの可能性あり。モラルハラスメント傾向】
「…」
夫は黙り込んだ。
義母への電話
「それと、これからお義母さんに電話します」
「は!?やめろ!」
「やめません」
私は義母に電話をかけた。
「お義母さん、今お時間よろしいですか?」 「ええ、どうしたの?」 「実は、聞いていただきたいことがあって」
「息子と何かあった?」 「はい…」
私は義母に、録音データの一部を送信した。
「今送ったので、聞いてもらえますか?」
3分後。
「…これ、息子の声?」
義母の声が震えている。
「はい」 「何これ…こんな言い方してるの?」 「週3回くらいのペースで、1回1時間です」
「ちょっと待って。今すぐ行くわ」
義母の登場
30分後、義母が家に来た。
夫は部屋に閉じこもっている。
「出てきなさい!」
義母の一喝。
夫が渋々出てくる。
「あんた…何やってるの?」 「母さん、これは…」 「黙って!」
義母はスマホを夫に突きつけた。
「これ、全部聞いたわよ」 「…」 「『親からちゃんと教わらなかったのか』?」 「それは…」 「じゃああんたは!?私から何を教わったの!?」
義母の怒りが爆発した。
「こんな言い方、私教えてないわよ!」 「嫁さんの親を馬鹿にして!」 「あんたが一番、親の教育受けてないじゃない!」
夫は何も言い返せない。
義母の説教
義母は2時間、夫を説教した。
「結婚は対等なパートナーシップよ」 「上司と部下じゃないの」 「嫁さんはあんたの部下じゃない」
「それに、こんな説教、子供の前でして」 「孫が怯えてるじゃない」 「父親として最低よ」
夫は終始、下を向いていた。
「嫁さんに謝りなさい」 「…ごめん」 「ちゃんと!」
夫は私の前に座り、頭を下げた。
「…本当に、ごめんなさい」 「もう説教しません」 「反省します」
義母「私も見張るから。また同じことしたら、実家に連れ戻すわよ」
その後の変化
それから、夫は変わった。
説教は一切なくなった。
私が何かミスをしても、 「大丈夫?」 「次から気をつけようね」
優しい言葉をかけてくれるようになった。
義母は週1回、我が家に来るようになった。 「息子、ちゃんとしてる?」と監視(笑)
夫は義母の前では、借りてきた猫のよう。
ある日、夫が言った。
「…俺、ひどいことしてたな」 「うん」 「録音聞き返したら、自分でも引いた」 「そう」 「本当にごめん」
夫は泣いていた。
「もう二度としない」 「信じるよ」
子供の笑顔
一番の変化は、子供だった。
以前は夫が帰ってくると、怯えた顔をしていた。
でも今は、 「パパ、おかえり!」 と笑顔で迎える。
「今日ね、学校でね…」
子供が楽しそうに話す。
夫も笑顔で聞いている。
「そうなんだ!すごいね!」
私は思った。 これが、本当の家族の姿なんだと。
エピローグ
半年後。
夫は、カウンセリングにも通い始めた。
「自分のコミュニケーションの問題に気づけた」 「あの時、君が行動してくれて良かった」
義母からも電話。
「あの時はごめんなさいね」 「息子をちゃんと育てられなくて」 「でも、あなたのおかげで息子は変われた」 「ありがとう」
私は今、穏やかな日々を過ごしている。
もし同じように悩んでいる人がいたら、 私は言いたい。
我慢しなくていい。 記録して、証拠を残して。 専門家に相談して。 そして、信頼できる人に頼って。
一人で抱え込まないで。
あなたは悪くない。

 
  
  
  
  

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