夫の会社の大手取引先で不正経理が発覚。取引先が突然倒産し、夫の会社も連鎖倒産してしまったのだ。
夫は一夜にして無職になった。
「まさか…俺の会社が…」
夫は呆然としていた。一流企業のエリートだったプライドが、一瞬で崩れ去った。
夫は毎日家でゴロゴロして、転職活動もろくにしない。
「俺は一流企業にいたんだぞ。次も一流じゃないと嫌だ」
でもそんな簡単に決まらない。
貯金がどんどん減っていった。
私の給料だけでは生活が厳しくなった。
そんな時、私の父が電話をくれた。
「大変だろう。うちの工場、人手不足なんだ。もし良ければ、旦那さんに働いてもらえないか?」
父の優しさに涙が出た。
私は夫に伝えた。
「お父さんが、工場で働かないかって言ってくれてるよ」
夫は顔をしかめた。
「は?工場?あの底辺職?無理無理」
「でも今、他に仕事ないでしょ?」
「あんな底辺職、俺のプライドが許さない。一流企業が見つかるまで待つ」
夫はプライドだけは高かった。
それから3ヶ月。
夫は相変わらず無職。貯金は底をついた。
私の給料だけでは家賃も払えなくなり、実家に助けを求めた。
父は快く「しばらくこっちに住めばいい」と言ってくれた。
私たちは私の実家に転がり込んだ。
父は夫にもう一度言った。
「工場で働かないか?給料は安いが、真面目に働けば昇給もある」
夫はまだプライドが邪魔をしていた。
「考えときます…」
それから2ヶ月。
夫は実家に居候しながら、転職活動をしていたが、全く決まらない。
貯金はゼロ。私の給料も実家に生活費として渡していた。
夫はどんどん惨めになっていった。
ある夜、夫が私に言った。
「お義父さんの工場で…働かせてもらえないかな…」
やっと現実を見たらしい。
私は父に伝えた。
父は少し考えて、こう言った。
「…ごめんな。うちの工場、もう人が埋まったんだ」
「え?」
「3ヶ月前に募集したけど、旦那さんが断ったから、他の人を雇ったんだよ」
私は夫に伝えた。
夫の顔が真っ青になった。
「そんな…もう一度お願いしてくれよ!」
「お父さんは最初に声をかけてくれたよね。あなたが『底辺職』って言って断ったんでしょ?」
夫は何も言えなかった。
「それに、お父さんの仕事を『底辺』って馬鹿にしてたよね。そんな人を雇えるわけないよ」
夫は土下座した。
「頼む!俺が間違ってた!お義父さんに謝るから!」
でも父は首を振った。
「息子さんをあの『底辺職』で雇うわけにはいかんよ。プライド傷つけちゃ悪いからな」
父の言葉に、皮肉が込められていた。
夫は何も言い返せなかった。
結局、夫はハローワークで見つけた警備員のアルバイトに就いた。
時給1200円。月収20万円にも満たない。
ある日、私は夫に言った。
「これが底辺職ですか?」
夫は俯いた。
「お父さんは工場で30年働いて、今は班長です。弟も真面目に働いて、今は係長です。お母さんは専業主婦だけど、家族のために毎日頑張ってます」
夫は顔を上げられなかった。
「あなたが馬鹿にしてた私の家族は、今、あなたを助けてくれています。食事も、住む場所も、全部です」
夫の目に涙が浮かんでいた。
「でも、私はもう限界です」
「え…?」
「離婚しましょう」
夫は驚いた。
「待ってくれ!今から頑張るから!俺が間違ってた!」
「ずっと私の家族を侮辱し続けた人を、もう信用できません」
父も母も、弟も、私の決断を支持してくれた。
「お前が決めたなら、応援するよ」
父が言ってくれた。
離婚調停が始まった。
夫は「やり直したい」と何度も言ったけど、私は拒否した。
調停委員も、夫の言動を聞いて呆れていた。
離婚が成立した。
元夫は実家に戻ったが、義両親も夫の無職状態に呆れて、冷たくなったらしい。
結局、元夫は地元で倉庫作業のアルバイトをしているらしい。
一方、私は実家で暮らしながら、仕事を続けている。
父の工場は、最近大きな取引が決まって、業績が好調らしい。
「お前の旦那には悪いことしたかな」
父が少し申し訳なさそうに言った。
「お父さんは何も悪くないよ。あの人が自分で選んだ道だから」
父は少し笑った。
「底辺職だって、真面目に働けば幸せになれるんだけどな」
弟も最近彼女ができて、結婚を考えているらしい。
「姉ちゃんみたいに、相手の家族を馬鹿にするような奴じゃないから安心して」
弟が笑って言った。
私も笑った。
人を見下す人は、いつか自分が見下される立場になる。
因果応報。
元夫は今、それを痛感しているはずだ。
私の家族は貧乏じゃない。心は誰よりも豊かだ。
それを理解できなかった元夫は、本当に可哀想な人だったんだと、今なら思える。



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