夫はスマホを見ながら「ああ、それ。別にいいじゃん」と軽く答えた。
「良くないよ!無断で載せないでって言ってるの!」
「え、でも俺が作ったわけじゃないし、お前の料理だし、別に問題なくない?」
「問題あるよ!しかも『下手』とか書いて。恥ずかしい」
「事実じゃん。お前の料理、たまに失敗するし」
夫は笑いながら言った。
「じゃあ自分で作れば?」
「俺、料理できないし。お前が作るのが当然でしょ」
何を言っても通じない。
その日から、夫は私の料理を毎日撮影するようになった。
「ちょっと待って、写真撮るから」
食事の前に必ずスマホを取り出す。
そしてSNSに投稿。
「今日の嫁飯チェックwww」
コメント欄は相変わらず酷い。
「奥さん、料理苦手なんだね」
「旦那さん可哀想」
私の職場の人がそのアカウントを見つけた。
「ねえ、これ○○さん?」
同僚が私にスマホを見せてきた。
私は顔から血の気が引いた。
職場で「料理下手な人」として噂になってしまった。
私は再び夫に頼んだ。
「お願いだから消して。職場の人にバレたの」
「え、マジで?まあ、でも別によくない?」
「良くないよ!恥ずかしいの!」
「大げさだなあ。みんな見てるだけで、誰も気にしてないって」
夫は全く聞く耳を持たない。
私は限界だった。
そして、ある決意をした。
「わかった。じゃあ私も同じことしていい?」
「は?何が?」
「あなたの写真、私もSNSに載せる」
「え、俺の?別に構わないけど」
夫は軽く笑った。
その日から、私は夫の写真を撮り始めた。
朝、寝起きの顔。ボサボサの髪、よだれの跡。
「ちょっと、何撮ってんの」
「写真だよ。あなたもやってるでしょ」
夫が部屋着でダラダラしている姿。
お腹が出た体型がわかる角度で。
夫が休日に作った料理(大失敗で真っ黒に焦げたトースト)。
私は新しくSNSアカウントを作った。
アカウント名は「夫観察日記」。
そして投稿を始めた。
「今日の夫の寝起き顔wwwよだれ付きwww」
写真付き。
「今日の夫の部屋着、ダサすぎwww10年前のTシャツらしいwww」
「夫が料理作ってみたらしい。焦げてるwww」
私の友人たちが「いいね」を連打してくれた。
さらに、友人たちがシェアしてくれて、どんどん拡散されていく。
数日後、夫がスマホを見ながら叫んだ。
「ちょっと!何これ!?俺の写真載せてるの!?」
「うん。あなたもやってたよね」
「俺のは料理だろ!これは俺の顔とか体とか!」
「私の手や横顔も映ってたよね。同じことだよ」
「違う!これは恥ずかしい!消してよ!」
夫は焦っていた。
「え?別にいいじゃん。あなたの言葉を借りるなら『別に問題なくない?』」
「問題あるよ!会社の人に見られたらどうするんだ!」
「私も職場の人に見られたんですけど。あなたは『大げさ』って言ったよね」
夫は何も言い返せなくなった。
私はさらに投稿を続けた。
「夫、今日も帰宅後すぐソファでゴロゴロwww家事手伝わないwww」
「夫の部屋、散らかりすぎwww片付けられない男www」
夫の友人からも連絡が来た。
「お前、奥さんにSNSで晒されてるぞ」
夫は真っ青になった。
「頼むから消してくれ」
「嫌だよ。私も消してって言ったのに、消してくれなかったよね」
「わかった、わかったから!俺のも消すから!」
「本当に?」
「本当だから!」
夫は慌てて自分のSNSアカウントを開いた。
私の料理の投稿を一つ一つ削除していく。
「全部消したから!だから消してくれ!」
「ちょっと待って。本当に全部消した?」
私は夫のアカウントを確認した。
確かに、私の料理の投稿は全て消えている。
「じゃあ条件がある」
「条件?」
「アカウント自体を削除して」
「え?」
「だってまた載せるかもしれないでしょ。信用できない」
「…わかった」
夫は目の前でアカウントを削除した。
「これでいい?」
「あと、二度と私の料理を撮影しないこと。これを破ったら即離婚」
「わかった、わかった」
「それから、毎日『美味しい』って言うこと」
「え?」
「私の料理を『下手』って言ってたよね。だから毎日『美味しい』って言って」
夫は渋々頷いた。
「じゃあ私も消すね」
私はスマホを操作して、投稿を全部削除した。
実は、最初から数日で消すつもりだった。
夫に同じ気持ちを味わわせたかっただけ。
その日から、夫は私の料理に文句を言わなくなった。
毎日「美味しい。ありがとう」と言うようになった。
最初は義務的だったけど、最近は本心から言ってる気がする。
先日、夫が友人と飲みに行った時のこと。
友人が「お前、奥さんに晒されてたよな」と笑った。
夫は「ああ…あれは俺が悪かった」と答えたらしい。
「奥さんの気持ち、わかったか?」
「わかった。本当に反省した」
友人が「良かったじゃん。いい勉強になったな」と言ってくれたそうだ。
帰宅後、夫が私に言った。
「ごめん。俺、お前の気持ち全然わかってなかった」
「今更?」
「自分がされて初めてわかった。恥ずかしいし、嫌だし、消してほしいって思った」
「そうでしょ」
「本当にごめん。もう二度とやらない」
夫は真剣な顔だった。
それから半年。
夫は約束を守っている。
料理の写真を撮ることもなく、毎日「美味しい」と言ってくれる。
先日、夫が「今日の料理、本当に美味しかった。写真撮りたいくらい」と言った。
「冗談でも言わないで」
私が睨むと、夫は慌てて「冗談だよ。もう絶対やらない」と手を振った。
経験しないとわからないことがある。
自分がされて初めて、相手の痛みがわかる。
夫も私も、あの時学んだ。
SNSは便利だけど、使い方を間違えると人を傷つける。
そして、パートナーの気持ちを考えることの大切さ。
今では笑い話だけど、あの時は本当に辛かった。
でも、同じことをして夫に理解させて良かった。
これからも夫婦仲良く、美味しいご飯を食べていこう。



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