「うちの嫁、産後太りが酷くてさ。もう見てられないレベルだよ」
夫が友人たちの前で、笑いながら言った。私は隣にいるのに。
私は30歳。1年前に出産して、体重が妊娠前より8キロ増えたまま。確かに太った。でも、毎日育児と家事に追われて、運動する時間なんてない。
友人たちは気まずそうに笑っていた。私は顔が真っ赤になった。
「ちょっと…」
「いやマジで。結婚前はスリムだったのにな。もう別人だよ」
夫は32歳の会社員。自分は運動もせず、ビール腹が出てきてるのに。
その日の帰り道、私は夫に言った。
「さっきの発言、傷ついた」
「え、何が?」
「私が太ったって、みんなの前で笑いものにしたでしょ」
「別に悪気ないって。事実じゃん。お前、太ったよ?鏡見てみろよ」
事実でも、そんな言い方ある?
それから、夫の攻撃は日常化した。
朝、私が着替えていると「その服、きつくない?腹出てるよ」。
夕食を作っていると「お前も食べる量減らせば?」。
テレビで女優を見ると「あんな体型だったらいいのにな」。
毎日、毎日、私の容姿を馬鹿にする。
「痩せろよ。だらしない」
「産後1年も経ってるのに、まだ戻らないの?他の人はもっと早く戻してるぞ」
「ちょっとは努力したら?」
私だって努力したい。でも時間がない。
朝6時に起きて、子供の世話。朝食を作って、掃除して、洗濯して。昼は子供の離乳食を作って、食べさせて。午後は買い物に行って、夕食の準備。夫が帰ってくるまでに全部終わらせる。
夫は帰宅後、ソファに座ってスマホ。育児も家事も手伝わない。
「俺は仕事してるんだから、家のことはお前の仕事だろ」
私に休む時間なんてない。
それなのに「痩せろ」って。
我慢の限界がきた私は、ついに言い返すと夫は…
「あなたも最近、髪薄くなってきたよね」
【続き】
夫の顔が一変した。
「は?何言ってんだ」
「事実じゃん。おでこ広くなってるよ。鏡見てみたら?」
夫の同じ言い方で返した。
「ふざけんな!男と女は違うだろ!」
「どう違うの?容姿を馬鹿にされたら、誰だって傷つくでしょ」
「男の禿げと女のデブは違う!お前は努力すれば痩せられるだろ!」
夫は激怒して、部屋から出て行った。
私は泣いた。
もう限界だった。
翌日、私は決意した。
夫を見返してやる。
私は子供を週3回、一時保育に預けることにした。月3万円。夫には内緒で、私の独身時代の貯金から出した。
そしてジムに通い始めた。
最初は体が重くて、30分走るのもきつかった。でも、トレーナーが「無理せず続けましょう」と励ましてくれた。
食事も見直した。炭水化物を減らし、タンパク質を増やした。夫の分は今まで通り作るけど、私は別メニュー。
夫は「何でお前だけ違うもの食べてるんだ?」と聞いてきたけど、「ダイエット中だから」とだけ答えた。
3ヶ月が経った。
体重が5キロ減った。体が軽くなって、走るのも楽になった。
夫は「少し痩せたんじゃない?」と言ってきたけど、私は無視した。
さらに3ヶ月。
体重は妊娠前に戻った。いや、それより2キロ少ない。
ジムのトレーナーが「素晴らしい!ボディラインも綺麗になりましたね」と褒めてくれた。
私は美容院にも行き、髪を綺麗にカットとカラー。メイクも研究して、久しぶりにちゃんと化粧した。
服も新しく買った。体型に合ったおしゃれな服。
鏡を見ると、別人がいた。
綺麗になった自分がいた。
夫が仕事から帰ってきて、私を見て驚いた。
「お、おお…すごいな。めっちゃ綺麗になったじゃん」
「ありがとう」
夫は嬉しそうに笑った。
「やればできるんじゃん。この調子で維持しろよ」
その言葉で、私の中で何かが切れた。
「ねえ、話がある」
「ん?何」
「離婚したい」
夫は固まった。
「は?何言ってんだ?」
「離婚します」
「なんで!?せっかく綺麗になったのに!」
「あなたが私を馬鹿にした時、もう愛は冷めてました」
夫の顔が青くなった。
「ちょっと待て、あれは冗談で…」
「冗談?友達の前で『産後太りが酷い』『見てられないレベル』って笑いものにしたのが?」
「それは…悪かった。でももう痩せたんだろ?」
「痩せたのは、あなたを見返すためです。あなたに認められるためじゃない」
「俺、そんなにひどいこと言ったか?」
私は携帯を取り出して、メモを見せた。
今まで夫が言った暴言の記録。日付と内容。全部書いてあった。
「太った」「だらしない」「痩せろ」「別人」「努力しろ」
夫は絶句した。
「これ…全部俺が言ったのか」
「はい。毎日、毎日、言われ続けました。もう限界です」
「ごめん…そんなつもりじゃ…」
「そんなつもりじゃなくても、言われた方は傷つくんです。あなたの禿げ発言で怒ったのと同じです」
夫は何も言えなくなった。
私は続けた。
「それに、あなたは育児も家事も手伝わなかった。私が太ったのは、時間がなかったからです。でもあなたは『お前の仕事だろ』って」
「それは…」
「もういいです。離婚届、書いてください」
離婚届を夫の前に置いた。
夫は「もう一回やり直せないか?」と懇願したけど、私の気持ちは変わらなかった。
結局、夫は離婚届にサインした。
親権は私。養育費は月7万円。
離婚が成立して、私は子供と新しいアパートに引っ越した。
それから半年。
ジムで知り合った男性と付き合うことになった。彼は優しくて、私の外見だけじゃなく、内面も見てくれる人。子供のことも大切にしてくれる。
ある日、スーパーで元夫と偶然会った。
元夫は明らかに太っていて、髪も薄くなっていた。
「久しぶり…」
元夫は気まずそうに言った。
「元気そうだな。相変わらず綺麗で…」
「ありがとう」
「俺…あの時は本当にごめん。お前がいなくなって、やっと気づいたんだ。どれだけお前に支えられてたか」
「そう」
私は冷たく答えた。
「もう一回、やり直せないか?」
「無理です。もう新しい人がいますから」
元夫の顔が歪んだ。
「そうか…」
「それじゃあ」
私は元夫を残して、去った。
子供を抱いて、新しい恋人が待つ家に帰る。
綺麗になった自分。
自信を取り戻した自分。
夫を見返すために始めたダイエットだったけど、結果的に私は自分のために綺麗になった。
容姿を馬鹿にした元夫は、今頃後悔してるだろう。
でももう遅い。
因果応報。
私は二度と、人を外見で馬鹿にする人とは関わらない。
今、私は幸せだ。


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