離婚調停は、あっさりと終わった。
大樹は慰謝料も払わず、家を出ていった。
「美咲と新しい家庭を作るから」
そう言い残して。
私は、一人になった。
毎晩泣いた。
私は、本当に不妊なんだろうか。
でも、大樹は検査を拒否し続けた。
「男は問題ない。女が原因に決まってる」
そう言って。
数ヶ月後、私は新しい職場で働き始めた。
そこで出会ったのが、医師の健吾だった。
「絢香さん、よかったら今度食事でも」
健吾は、優しい人だった。
私の過去も全て聞いた上で、こう言ってくれた。
「不妊かどうかは、ちゃんと検査しないとわからないよ」
「もし、結婚を考えるなら、二人で検査を受けよう」
私は、健吾のその言葉に救われた。
1年後、私と健吾は結婚した。
そして、二人で不妊検査を受けた。
「絢香さん、あなたには何も問題ありませんよ」
医師の言葉に、私は涙が出た。
「本当に…?」
「ええ、妊娠できる体です」
健吾が、私の手を握った。
「よかったね」
それから数ヶ月後、私は妊娠した。
妊娠7ヶ月のある日。
私は健吾の病院で検診を受けていた。
その時、廊下で見覚えのある男性を見かけた。
大樹だった。
やつれた顔。元気のない様子。
「あれ…絢香?」
大樹が、私に気づいた。
「久しぶり」
私は、静かに答えた。
「お前…太った?」
「妊娠してるのよ」
大樹の顔が、固まった。
「妊娠…?お前、不妊じゃなかったのかよ」
「検査したら、私には問題なかったの」
大樹が、青ざめた。
「じゃあ、俺が…」
その時、健吾が私の元にやってきた。
「絢香、お待たせ。赤ちゃん元気だよ」
健吾が、私のお腹に手を当てた。
「あなたが…」
大樹が、健吾を見た。
「絢香の夫の健吾です」
健吾が、名刺を渡した。
「○○総合病院 泌尿器科 医師 健吾」
大樹が、名刺を見て息を呑んだ。
「泌尿器科…」
「ええ、男性不妊の専門です」
健吾が、穏やかに言った。
大樹は、何も言えなくなった。
「それで、あなたは何の診察で?」
健吾が、さりげなく聞いた。
「それは…」
大樹が、目を逸らした。
その時、診察室から看護師が出てきた。
「山田大樹様、検査結果が出ました」
「え、ああ…」
看護師が、書類を渡した。
大樹の顔が、見る見る青ざめていった。
「無精子症…」
大樹が、呟いた。
「治療は困難との診断です」
看護師が、淡々と告げた。
私は、何も言わなかった。
健吾が、静かに言った。
「不妊の原因は、女性だけとは限りません」
「むしろ、男性側の原因も多いんですよ」
大樹が、私を見た。
「なあ…俺…」
「もう関係ないわ」
私は、冷たく言った。
「あなたは私を『不妊の役立たず』って言ったわよね」
「検査もせずに」
大樹が、膝から崩れ落ちそうになった。
「頼む…戻ってきてくれ…」
「無理よ。私には今、大切な家族がいるの」
健吾が、私の肩を抱いた。
「行こう、絢香」
私たちは、大樹を残して去った。
数ヶ月後、私は無事に男の子を出産した。
健吾が、赤ちゃんを抱きながら言った。
「ありがとう、絢香」
「こちらこそ。あなたに出会えてよかった」
後日、友人から聞いた。
大樹は、美咲にも捨てられたそうだ。
「子供ができないなら別れる」
そう言われて。
因果応報。
人を傷つけた者には、必ず報いが来る。
私は、赤ちゃんを抱きながら思った。
本当に大切なのは、相手を思いやる心。
それがない人とは、どんな関係も続かない。
窓の外を見ると、桜が満開だった。
新しい人生が、始まっている。
【完】


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